2025年3月19日、Spotify O-EASTにて行われた『Spotify Early Noise Night #17』。次の時代の足音をいち早く聴くこのイベントのステージを飾ったのは、reina、Billyrrom、AKASAKI、ブランデー戦記、レトロリロン。この1〜2年で頭角を現してきた、異なる出自と音楽性を持つ新鋭5組である。昨年出演したFurui Rihoやjo0jiをはじめ、過去にはあいみょんやSTUTS、Omoinotakeや羊文学などが登場するなど、2017年の立ち上げ以降積極的に若い才能をフックアップしてきたSpotify主催のイベントだ。
reina

この日のトップバッターとして登場したのは、気鋭のクリエイティブレーベル/コレクティブ・w.a.u所属のR&Bシンガー・reinaだ。ひんやりとした音色が心地良いラップ調の「Dogs」から始まり、ベースの存在感がグッと高まるグルーヴィな「Good to me」へと繋がっていく。繊細ながら腹の底に響くような低音が素晴らしく、体の内側から熱が込み上げてくるのを感じる。技術と品格を兼ね備えたアンサンブルだ。バンドメンバーはreinaと同じくw.a.uからGai Seki(Per)、Koki Furukawa(Key)、Kota Matsukawa(Ba)、Kazuho Otsuka(Gt)、Reo Anzai(Manipulator)、Ryuju Tanoue(Dr)の6人が参加。黒で統一された衣装がシックなイメージを印象付ける。
短いMCを挟んで歌われたのは、reinaが「初めて書いた曲」だという「my apologiesss」。優しく身体を解きほぐすようなネオソウル風の曲調で、音の波に揺られながらゆったりと踊らせてくれる。それから「Do The Thing」を挟み、この日がバンド演奏での初披露だという新曲「Burn」へ。細やかなタッチのドラムと強烈にうねりを上げるベース、多彩なパーカッションが音楽の厚みを生み出していた。

ここでライブの雰囲気は一変。タイトなドラムと全体的にソリッドな演奏で、「RADAR: Early Noise 2023」にも選出されたヒップホップアーティストのSkaaiを客演に迎えた「Youth」をプレイ。中盤に差し込まれるアフロ風のパーカッションも印象的で、このステージのハイライトと言える演奏だったのではないだろうか。最後は「A Million More」を歌い終演。「今年は曲もアルバムも沢山リリース予定」とのことで、2025年も引き続き注目していきたい。
Billyrrom

2番手は東京・町田出身、2020年に友人同士で結成された6人組・Billyrrom。先日にはZepp Shinjukuで行われたツアーファイナルを盛況で終えるなど、まさに加熱する勢いを感じている最中だろう。
ダイナミックなドラムと強いアンサンブルが広い舞台を想起させるロックナンバー「DUNE」からスタート。早くも火がついたフロアに一層炎を投げ込むように、Mol(Vo)の「自由に踊れー!」という叫びから「Once Upon a Night」へと接続。ファンキーなギターカッティングと挑発的なベースが腰を揺らす中、Yuta Hara(DJ / VJ)が差し込むスクラッチが一層気分を上げていく。
「Soulbloom」では、空間を活かした抑制の効いた演奏とサイケデリックな映像演出が融合し、没入感のある世界観を展開。「Apollo」ではステージLEDに銀河を駆け抜けていくような映像が映し出され、加速していくドラムとベースが聴き手の身体を軽くしていく。フロアから巻き起こるクラップが一層この曲のスピード感を引き立てる中、ボーカルと共に主役を張るようなRinのギターも爽快に響きわたり、その勢いに身を任せるように歌われる《このスピードに乗って》のフレーズが印象的に響いた。タフなライブバンドへと成長を遂げてきた、今のBillyrromを象徴するような演奏である。
最後は「Time is Over」をプレイ。Billyrromらしいカッティングギターとアグレッシブなベースが牽引する中、どことなくジャズからの影響を感じる鍵盤も良いアクセントを生み出していたように思う。なんとも開放的なムードを演出し、ステージを去っていった。
AKASAKI

「最高の夜にしようね」――AKASAKIのステージはハツラツとしていた。
1曲目は《真面目ぶった音楽に嫌気が差してんだ》というフレーズが強烈なデビュー曲「弾きこもり」。
ざらついた声質はこの曲にピッタリで、クールな気分のまま踊らせるビートが気持ちいい。
そこから「踊れ渋谷!」という叫びと共に「ルーツ」へ突入。
ネオンライトの華やかな光を想起させる鍵盤が、ノスタルジーを刺激していく。
MCでは先日、高校を卒業したAKASAKIにフロアから「卒業おめでとう!」という声が上がり、
「留年を回避して卒業しました〜!」と返す微笑ましい一幕も。とにかく飾らないステージングが印象的だ。
続いてこの日リリースされたばかりの「爆速論理ness」を披露。
タイトル通り速いテンポのドラムに、歪な音色のギターとベースが覆い被さっていく。
吐き捨てるような声色で歌うボーカルもバッチリはまっており、フロアの熱気も一層高まっていった。
「Spotifyに人生を変えてもらったと言っても過言ではないので、この場で歌うことができて嬉しい」というMCを挟み、ラストスパートは80’sを彷彿とさせるアニメーション映像と共に演奏された「夏実」、そして自身の存在を世に知らしめた「Bunny Girl」だ。
前者は甘酸っぱいメロディとほろ苦い歌詞のコントラストが秀逸な1曲で、後半に進むにつれて豪快さを増していくドラムが気持ちいい。
そのテンションを倍にしてフィナーレへと突き進んでいくのが後者である。
《夜の始まりさ》という冒頭のフレーズが歌われた瞬間にフロアが沸き立ち、軽快なドラミングがフロアをダンスホールに変えていく。
「毎月新曲を出す」という彼はこの自然体な姿のまま2025年も飛んでいくのだろう。

ブランデー戦記

4組目はヒリヒリと肌を焼き付けるようなロックサウンドを聴かせるブランデー戦記である。
浮遊感のあるサウンドの「悪夢のような」でライブは始まり、気怠そうな発声で歌う《悪夢のような1週間だったわ》というフレーズがいつまでも頭の中を漂っていく。蓮月(Gt/Vo)のボーカルはスッと染み渡るような透明感があり、この声で歌われることでリリックが一層鼓膜の奥へと突き刺さっていく。

2曲目はバンドを一躍シーンの注目株へと引き上げた「Musica」。歌謡曲の「憂い」とオルタナティブロックの「激しさ」が同居したようなサウンドには抗い難い魅力があり、ここからライブは鋭さを増していく。軽やかに疾駆していくボリ(Dr)のビートと、重力を無視して暴れ回るようなみのり(Ba/Cho)のベースが爽快な「coming-of-age story」から、短いMCを挟んでリリース直後の「The End of the F***ing World」へ。ファンクロック的なニュアンスを感じる新曲で、どことなくメランコリックなメロディと無愛想なカッティング、そして存在感抜群のうねるベースに惹きつけられる。
スリーピースらしい引き締まったアンサンブルはもちろん魅力的で、MCも最小限。演出や映像もないステージは潔く、どこまでも力強い。最後は「ラストライブ」を歌い、そして重厚なビートで疾走していく「ストックホルムの箱」を披露して終演。フロアから上がる拳やクラップが爽快で、バンドのさらなる飛躍を予感せずにはいられない。

レトロリロン

ポップでカラフルな音楽がフロアを眩しくさせる。四者四様のステージを見せた『Spotify Early Noise Night #17』の最後を締めくくるのは、レトロリロンのライブである。2020年に音楽大学の同級生たちで結成、高らかと歌い上げるようなボーカルと、確かな演奏力が魅力的な彼らのステージは清々しいくらい晴れやかだ。楽曲のドラマチックな側面を引き立てる鍵盤、華やかな上音の下からブイブイと腰を揺らしてくるベース、何よりも活力のあるドラムはライブが終わってからもずっと心に残るようなインパクトがある。また、「ヘッドライナー」から「ワンタイムエピローグ」へ移る際に告げた「自由に、好きなように、ありのままの自分で楽しんで帰ってください」というメッセージは、彼らの創作に通底するテーマであるように思う。涼音(Vo/Ag)のボーカルは楽曲に込めた想いを力強く投げかけるように情熱的だ。
ファンクやソウルミュージックからの影響を感じる洒脱な「DND」、エネルギッシュなドラムに引っ張られていく「カテゴライズ」と爽快なステージが続いていく。パッと花が咲くようなサビのメロディと、鍵盤の踊るようなフレーズが気持ちいいカテゴライズはとりわけ耳に残る演奏で、フロアからも大きなコーラスが聴こえてきた「アンバランスブレンド」へと繋がっていく。「アンバランスブレンド」はリズミカルだが切なさを含んだ歌で胸を締めつけてくる、ドラマチックな展開など、このバンドの魅力が詰まった楽曲だった。

アンコールも沸き起こり、涼音が「楽しくやって終わりましょうか」と告げて「TOMODACHI」を披露。のっけから起こるクラップやコーラスがバンドの支持の高さを感じさせる。なんともポジティブな余韻を抱かせるライブだった。

この日出演した5組の新鋭は、いずれも今後の音楽シーンを大いに彩っていくのだろう。次代の担い手が生まれることを期待しながら、それぞれの活躍を見守りたい。