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『Spotify Music Seminar』レポート 日本の音楽を世界へ届ける最良のパートナーとして

 Spotifyは11月27日、渋谷の TRUNK(HOTEL)にて『Spotify Music Seminar』を開催。当日はレーベルやマネジメントなど音楽業界関係者約100名を招待し、Spotifyの経営陣によるプレゼンテーションやスペシャルゲストを招いた対談などを実施いたしました。

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スポティファイジャパン 代表取締役 トニー・エリソン

 まずはスポティファイジャパン 代表取締役のトニー・エリソンが今回の『Spotify Music Seminar』開催の意図を説明し、「グローバルストリーミングプラットフォームの中でも、音楽業界のパートナーとして創設したのはSpotifyだけ。真面目なネーミングにしちゃいましたが、仲間・友人の集まりのようなものだと思ってください」と語り、セッションがスタート。

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 そのまま“Spotifyからの日本の音楽業界関係者への提案”として「目の前に広がる世界輸出のチャンスを掴もう」「国内市場もまだまだ成長」「Spotifyは海外のみならず日本でもベストパートナー」と3つのキーワードを掲げました。

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 トニーは「日本ではここ数年、フィジカルの売り上げが減少しており、その分をまだストリーミングだけでは補填できてはいないが、今後ストリーミングによって必ずやV字回復できると考えています。それには海外での需要創出と国内でのさらなる需要拡大が鍵を握っていると思います。ストリーミングの普及によって、いつでもどこでも、好きな音楽を繰り返し楽しむことができるようになり、リスナーが音楽を聴く時間も、聴かれる音楽の多様性も爆発的に広がりました。音楽業界にとって良いことです。ストリーミングによってボーダーレスになった今の音楽市場は、まるで数百年前の大航海時代のよう。関係者は新しい文化や貿易に対応しないといけませんが、同時にそれは新たなビジネスチャンスといえます。Spotifyは皆さんがそのチャンスを掴むお手伝いをさせていただきます」と熱く語りました。

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 特に「海外進出」を強く推奨しており、その理由の一つとして「日本文化が世界で愛されていること」を挙げたトニー。「一見関係ないように思えますが、文化と音楽は切り離せない。『世界で一番行きたい場所』として日本が挙げられることも多く、『一番食べたい食』として和食という声が挙がることも多い。かつては日本人がメジャーリーグで成功するなんて誰も思っていなかっただろうし、サッカーでスペインやドイツに勝つなんて思ってもいなかったが、いずれも現実に起きた。外国人が生の魚を食べるなんて考えられなかったし、アニメだってニッチなエンターテインメントだったのに、いまや世界に受け入れられている。音楽だけが違うはずがなく他のもの以上にグローバリゼーションは簡単なはず。日本の音楽を世界に広げるまで、Spotify Japanのチームは決して満足しません」と語った。

 続いて世界におけるJ-POPとK-POPの再生回数を比較したグラフを示し、「日本にはBTSのようなスケールで世界的に成功したアーティストはまだいないと思いますが、それでもすでにJ-POPはK-POPの半分近くにまで来ている。これは決してサプライズではなくて、事業戦略に基づく順当な成長なんです」とコメント。独自の発展を遂げた日本のユニークな音楽カルチャーを世界のリスナーに紹介する目的で今年立ち上げたプレイリスト「Gacha Pop」をはじめ、日本のアーティストが海外でリスナーを広げるサポートを様々な形で展開していることを強調しました。

 次に「国内需要の拡大」については、ライフステージや生活環境の変化から少し音楽から距離が離れていたかつての音楽ファンたちに、プレイリストなどを通じて音楽の楽しさを呼び覚まし、懐かしさや情熱をかき立てるような様々な活動を行っていることも紹介しました。1976年から2019年までの各年を彩った楽曲の数々を当時の文化風俗や世相とともに振り返るプレイリストシリーズ「スローバックTHURSDAY」もその一例です。

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 最後にトニーは、新進アーティストがリスナーを広げ、キャリアを軌道に乗せられるようにプレイリストからライブイベントまで立体的に支援してきた『RADAR:Early Noise』に続くプログラムとして、女性アーティストの活躍を後押しする「EQUAL」と、LGBTQ+コミュニティのアーティストやクリエイターに脚光を当てる「GLOW」を紹介し、来年以降より多様なアーティストやクリエイターがリスナーとつながり、ファンを広げられるように注力していくことを宣言しました。またTikTokとアプリ上や「Buzz Tracker」を通じて連動し、楽曲のバズをいち早くキャッチしてストリーミング上でヒットに繋げる取り組みを行っていることや、アーティストとファンが結びつきを強化できるようにオンラインとオフラインで多様なプログラムを展開していること、さらにアニメファンに音楽の楽しさを感じてもらえるように話題のアニメ作品とコラボレーションしていることなどを紹介し、業界関係者がパートナーとしてSpotifyをより積極的に活用することを呼びかけました。

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 続いて、Spotifyでグローバル市場におけるビジネスとサブスクリプション事業を統括するGustav Gyllenhammerと、音楽部門のグローバルヘッドを務める Jeremy Erlichが登場し、ストリーミング時代における世界の音楽ビジネスの状況とSpotifyの影響についてトニーとともにパネルディスカッションを行いました。

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 ジェレミーはまず「CEOのダニエル・エクはサービスを開始した15年前から『数百万人のアーティストが音楽によって経済的に自立できるようになり、10億人の音楽ファンがその作品を楽しめる世界を創る』ことをミッションに掲げ、一貫して取り組んできた」と振り返り、「いまやこれは達成可能な数字だと感じているし、この数字を超える道筋も見えてきた」と宣言。Gustavは「世界においてストリーミングが市場を牽引している国が増えてきた。もっとも大きいのは北米で、続いてラテンアメリカが挙げられるが、アジア太平洋地域も急速に伸びつつある」とデータを交えて解説しました。

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Jeremy Erlich

 また、英語圏の音楽だけでなく、様々な言語の音楽がグローバルチャートを賑わしていることについて、グスタフは「2017年にルイス・フォンシの『Despacito』が世界的にヒットしたことを皮切りにラテン・ミュージックが世界中で広く聴かれるようになり、2020年から2022年の3年間はバッド・バニーがSpotifyでも世界で一番聴かれたアーティストであった」とラテン音楽の世界的な躍進について触れると、続けてジェレミーは「最近ではアフリカ発のアフロビーツも盛り上がってきている。アフリカの音楽は長い間さまざまな音楽に影響を与えてきたが、つい先月にはレマの『Calm Down (with Selena Gomez)』が10億回再生を突破するなど、より影響力の大きなジャンルとなっている」とコメント。

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Gustav Gyllenhammer

 では、アジア圏の音楽はどうでしょう。グスタフはK-POPを例に挙げ「2023年にリリースされたK-POP関連楽曲の合計再生数は500億回だった」と明かし、今後も「韓国の音楽レーベルや事務所と密に連携してさらなる世界展開を後押しをする」と語った。

 続いてトニーから海外でリスナーを増やすための方法について聞かれたジェレミーは、「アーティストごとに様々な魅力があるのだから、全てに当てはまる定型はないものの」と前置きしたうえで「成功の鍵はまずは何よりも質の高い作品を作ること」とコメント。日本の音楽についても、「ストリーミングの普及と共にこれまで以上に世界に広がっている」と語り、「死ぬのがいいわ」が昨年世界で人気となった藤井風を最近の成功例として挙げました。

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 藤井風の躍進については、「Spotifyでは2020年から『RADAR: Early Noise』プログラムを通じてサポートしてきた。日本でリスナー基盤を広げた後、まずは動画投稿やソーシャルメディアなどをきっかけに東南アジアでバズが起き、楽曲がストリーミングで聴かれるようになったことで世界中に広がっていった。『死ぬのがいいわ』が世界で4億以上の再生回数を記録し、日本のアーティストとしては初めて月間リスナーが1000万人を突破した」と紹介。また他の事例として、「世界中で5億回再生を突破したYOASOBIや、韓国でのバズからバイラルヒットになったimase、アニメをきっかけに世界にリスナーを広げたAdoなど、様々な成功事例が散見されるようになってきた」と語り、「大事なのはまずは本国で基盤を作ること。そこから最初は近隣諸国でリスナーを広げ、ヨーロッパやアメリカなどより大きなマーケットにリーチしていく。まずはぜひ日本のSpotifyチームと協力して国内で楽曲をヒットさせた後、私たちと一緒に世界へ進出しましょう」と、日本のアーティストへのグローバル規模でのサポートに助力を惜しまないことを宣言し、セッションが終了しました。

 続いて、スペシャルゲストとしてYOASOBIのプロデューサーを務めるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平さんと山本秀哉さんが登場し、スポティファイジャパン 音楽企画推進統括の芦澤紀子と対談を繰り広げました。

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スポティファイジャパン 音楽企画推進統括 芦澤紀子

 芦澤はまず「2023年はYOASOBIの『アイドル』が多くの話題を作った。2023年6月10日付の米ビルボード・グローバル・チャート“Global Excl. U.S.”でJ-POPとして史上初めての1位を獲得。再生数も国内アーティストでは最速で1億回を、さらに9月には2億回を突破し、国内アーティストとして2組目となる月間1000万フォロワーを突破しましたね」と多くの快挙を成した今年のYOASOBIの活躍を振り返ると、屋代氏は「観たことのない景色を『アイドル』に見せてもらっている。この曲によって海外展開を考えるいいきっかけになりました」と語り、山本氏は「昨年12月にインドネシアとフィリピンのライブに出演し、海外のファンの熱量をダイレクトに体感する機会があった。J-POPにはどのような良さがあり、どうすればそれが海外のオーディエンスに伝わるかを考えてきた結果ではないか」と語り、セッションがスタート。

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 続けて芦澤が「バズのきっかけとなった『歌ってみた・踊ってみた』的なUGC動画が爆発的に投稿されたのは意図的ですか?」と質問をすると、屋代氏は「あくまでも結果論ですね。リリース前にはインフルエンサーを仕込むことなども模索しましたが、結果的には実施せず、アニメ『推しの子』とのコラボレーションに絞ってプロモーションを展開したほうが、アニメの引力も引き出せると思いました」と語りました。

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ソニー・ミュージックエンタテインメント 屋代陽平さん

 また、芦澤は「世界に広がった曲の多くはバイラルチャートをきっかけに注目を集めたヒットになっている。そもそもバイラルチャートを普段から意識しているのでしょうか?」と立て続けに問いかけると、屋代氏は「YOASOBIとして最初にトップを取ったチャートがSpotifyのバイラルチャートなんです。2020年の冬に美容室で髪を切っていたら『夜に駆ける』が国内バイラルチャートの首位になったLINEが届いて、初めてその存在を知って以来、YOASOBIはバイラルチャートとともにあると思っています。」とバイラルチャートの重要性を再確認。ソーシャルメディアでの広がりを促進するために、「実際にUGC動画を作った方の投稿を見て、引用ポストなどもしているんです」と公式アカウントの運用方法についても語ってもらいました。

 Spotifyは楽曲を配信しているアーティストやその関係者向けに様々なリスニングデータを分析できるツール「Spotify for Artists」を提供していますが、芦澤は「Spotify上でYOASOBIがどの国で聴かれているかをデータで見ていくと、アメリカ、メキシコ、インドネシアが上位などとわかります。こうしたデータは活用されることはあるのでしょうか?」と質問。屋代氏は「日々拝見していて活用しています。今週末からフェスへの参加とワンマンで海外にいくのですが、『この国はこの曲が聴かれているからセットリストに入れよう』とか、訪問する都市をどこにするかなど、アクションを立てる際の参考にしています」と、様々な活動に活かされていることをを明かしてくれました。

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ソニー・ミュージックエンタテインメント 屋代陽平さん(写真左)と山本秀哉さん(写真右)

 最後に「日本のアーティストや楽曲がこれまで以上に世界で勝っていくには?」と質問された山本氏は「日本の良さや日本独自のものをわざわざ変えるよりは、それらを世界にちゃんと発信していくことが大事だとわかりました。また、日本人の特性かもしれませんが、自分たちが積極的に世界に発信していくというよりは、海外の人に見つけてもらってピックアップされることが多い。でも、欧米では自分たちがしっかりと主体的に発信しており、目的意識を持って発信していくことの大事さを改めて感じています」と実体験をもとにした意見を述べ、セッションは幕を閉じました。

 最後にスポティファイジャパン音楽部門の統括責任者・大西響太が登壇。イベントの締めくくりとして「日本の音楽市場の未来について我々の考えをシェアできたことがうれしい」と述べたあと、業界関係者に向けた具体的な提案として「Spotfy For Artistの活用」、「Playlist Ecosystemの理解とカタログ作品の充実」、「Spotify MasterClassの利用」などを呼びかけ、イベントは終了しました。

 Spotify Japanはこれからも、日本のアーティストたちの良きパートナーとして国内市場を盛り上げ、海外進出を支援したいと考えています。

(写真=林直幸)