Chat with Spotify

連載「Chat with Spotify」 Spotify日本法人代表 トニー・エリソン×ソニー株式会社 伊藤 博史氏対談 プロダクトとサービスによる“新たな価値の創造”

 スポティファイジャパン株式会社 代表取締役を務めるトニー・エリソンが、ライフスタイルやカルチャー、ビジネスにおいて音楽や音声が果たす役割や可能性について各界のキーパーソンと語り合う対談連載「Chat with Spotify」。

 第一回のゲストとしてお招きしたのは、ソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイル商品企画部 統括部長の伊藤 博史さん。Spotifyとの連携機能も搭載している、画期的な“穴あき”イヤホン「LinkBuds」の開発秘話やSpotify連携機能のねらい、両社が描くビジョンやライフスタイルの変化を踏まえた“新たな価値の創造”への取り組みや、オーディオの可能性について、じっくり語り合ってもらいました。

始発駅・終点駅であるソニーと、それらを繋ぐ列車としての“Spotify”

▷まずはじめに、どのような経緯で両社の連携が実現したのか、教えてください。

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ソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイル商品企画部 統括部長 伊藤博史さん

伊藤:ソニーの「LinkBuds(リンクバッズ)」とSpotifyさんとの連携は、我々からの熱烈なラブコールから始まりました。「LinkBuds」のコンセプトは音との関わり方が大きく変化している若者・Z世代のニーズに応えるヘッドホンを作ろうという所から始まっています。Z世代を対象にしたグローバルの調査で、1日5時間以上もヘッドホンを利用している人が40%もいたことから、長時間装着でき、且つヘッドホンの穴を通して外の音が自然に聞こえる新しいコンセプトのヘッドホンを作りました。また、ヘッドホンを作って終わりではなく、音声サービスを展開している企業さんと連携して新しい音の体験を作ろうということになり、そこで名前が挙がったのが、若者のユーザーが多く、多様なコンテンツをお持ちのSpotifyさんでした。「LinkBuds」と一緒に新しい音の体験を作って一緒に訴求しませんか、とラブコールを送らせていただきました。

▷最初にオファーを受けたとき、トニーさんはどう感じましたか?

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スポティファイジャパン株式会社 代表取締役 トニー・エリソン

トニー:ソニーさんと一緒に仕事ができるなんて、と感動しましたね。僕にとって憧れのトップブランドですから。そしてなにか革新的なものができるんだろうとワクワクしました。

 「LinkBuds」は、周囲の音と再生しているコンテンツの音が両立する商品だと聞いて、さすがだなと感じました。ニーズを的確に捉えていますね。僕には10代の子どもが2人いるのですが、彼らがヘッドホンをしているときに話しかけても、こちらの声が届かないなんてことがよくありますから。「LinkBuds」を実際に利用してみるとそれはもうまったく新しい体験で、「これは小さな革命だね」とお伝えしました。

伊藤:その言葉を聞いたときはすごくうれしかったです。Spotifyさんと「LinkBuds」は主に2つの機能で連携しています。1つは「Spotify Tap」で、ヘッドホンをタップするとすぐにSpotifyでコンテンツを再生できるものです。もう一度タップすると、今度は好きなプレイリストに切り替わります。スマホを操作しなくてもすぐに音楽が聴けるので、若者に人気の機能ですね。もう1つは先ほど「小さな革命」とおっしゃっていただいた、「Auto Play」です。これはまだベータ版ですが、耳にヘッドホンを装着する、歩き出す、オンラインミーティングが終わるといったアクションを検知して、音楽を再生できる機能です。人々の日々の生活の中に、自然に自動で音楽が流れるような体験を目指しています。

トニー:「LinkBuds S」だと、自分が話し出すとノイズキャンセルがオフになり外の音が聞こえる機能もありますよね。すごいことです。

▷お互いの会社にどんな印象をもっていますか?

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伊藤:最初にSpotifyさんのサービスと出会ったとき、サウンドを楽しむ“究極の形”だと思いましたね。このサービスにログインすれば、どんなコンテンツでも聞くことができますから。コンテンツやプレイリストの数がとても多く、音楽に接する人の気持ちに寄り添っていると感じます。音楽の聞き方を自由にしたという意味で、とにかくかっこいいですね。

 また、Spotifyさんとソニーは、テクノロジーやクリエイティビティの力で新しい価値を創出するという点で、価値観が共通していると感じます。また、クリエイター・アーティストとリスナーをより良く結びつけようとしているところも似ていますね。我々のヘッドホンはユーザーの耳に1番近いですし、Spotifyさんはコンテンツとユーザーの接点に1番近いですから、両社が連携すれば新しい価値が生み出せると考えました。

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トニー:僕も同じ考えで、両社は目指してる世界が一緒です。そして面白いことに、お互いがやっていない事業を手がけているんですよね。ソニーさんは、クリエイターとユーザーにハードを提供する会社で、例えるなら始発と終点の位置にいるわけです。対してSpotifyは、クリエイターが作ったコンテンツをプラットフォームに載せてユーザーまで届ける、始発と終点を結ぶ列車の役割を果たしています。この関係性って、すごく相性が良いと思うんですよ。

▷目指しているところが根っこの部分で共通しているんですね。両社の連携によって、オーディオの可能性はどのように広がると思いますか?

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伊藤:両社の連携で、これまで以上に、人と音楽、人と人を、音の力で繋ぐことができるようになると思います。「LinkBuds」の「Link」という名前にも、色々な繋がりから新しい音の体験を作り届けたいという思いが込められています。ヘッドホンは常時装着出来るようになり、ヘッドホンのセンサーからさまざまな事が検知出来るようになってゆきます。一方Spotifyさんのコンテンツも音楽・ポッドキャスト始め、より多種多様になってゆきます。この2つがより自然に繋がる事により、ユーザーのあらゆる生活の中でより沢山の価値提供ができるようになると思います。

トニー:オーディオの可能性といえば、僕はよく「Spotifyは生活のサントラだ」と表現しています。朝起きたときや通勤・通学中、そして良いことや悪いことがあったときなど、皆さんさまざまなシチュエーションで音声コンテンツを聞いていて、生活にサントラがついているような日々を送っています。Spotifyとしてもコンテンツをどんどん拡大して、ユーザーの皆さんに楽しんでもらいたいですし、特に日本において、まだまだ眠っている可能性がたくさんあると考えているので、それらが発掘されるのが楽しみです。たとえばTwitterの人気を見てもわかるように、日本ではつぶやき文化が発達していますよね。今後ひょっとしたら、テキストではなく実際に声でつぶやく音声コミュニケーションが出てくるかもしれません。可能性は無限大です。

若者はすでにボーダーレス みんなで価値を創出する時代に?

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▷価値を提供する相手として想定しているユーザーと、彼らに対してどのようなアプローチをとっているかを詳しく教えてください。

伊藤:誰に届けたいかで言えば、やはり若い世代です。新しい楽しみ方や聞き方は、若い世代から生み出されますからね。それに僕らが若者だったころに比べると、今の若い世代は大変な環境に置かれていると感じるんです。ネットやSNSでできることが広がったと同時に、こなさないといけない課題も増えているように感じます。そういった中で、オーディオで毎日がより楽しくなるような、新しい提案をしていきたいです。

 アプローチの方法としては、ユーザー含め、色々な人と共創することだと思います。これからの時代はボーダーレスにいろんな人と協力して新たな価値を生み出したいですね。一緒にライブで盛り上がり、一緒に音楽の話をして、一緒にお酒を飲んで、次はなにを作ろうかと話し合うような場を作れたら楽しいですね。そこには音のクリエイターやインフルエンサー、そして私みたいにヘッドホンを作っている者もいて、トニーさんみたいにそれらを繋ぐ人もいる。そうやってみんなが一堂に会して新しいものを話し合って作ってゆくイメージです。若者世代は、どこの会社だとか、どこの国だとかをあまり気にしないんです。彼らはすでにボーダーレスなんだと感じる事がよくあります。

トニー:Spotifyのユーザーに対しては、新しいライフスタイルの提案をしていきたいです。そのためには、当然ユーザーに寄り添い、そのニーズを理解していないといけない。伊藤さんがおっしゃったように、みんなでお酒を飲み、音楽を聞きながら話し合うことは、いいアイデアですね。

 クリエイターに対して言えば、彼らが本当に伝えたいことを発信できるよう、応援することです。これまでは「UGC(ユーザー生成コンテンツ)=映像」というイメージが強かったのですが、最近では顔を見せないタレントさんやアーティストもたくさんいますよね。顔を出したくない人の中にも、発信したい人は多くいて、彼らにとってオーディオコンテンツは最適な手段だと思うんです。クリエイターのニーズもオーディオで満たせるはずです。

▷ポスト・コロナの時代において、どんな価値を届けていきたいですか?

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トニー:これからまた外に出ることも増えて、あらゆる状況でオーディオを楽しむライフスタイルが復活すると思います。そのニーズに合うコンテンツや体験を拡大していきます。パーソナライゼーション(個人への最適化)の精度を上げて、より良いコンテンツを届けることで、クリエイターが報われ、ユーザーがよろこぶようなサイクルを作るのがSpotifyの役割ですね。

伊藤:リアルとオンラインの双方ををより快適にしてゆく為に、ヘッドホンで人の耳の力を更に拡張出来たらと思っています。たとえば、外の音を遮音したり開放したり、聴きたい音楽をすぐに聴けたり、話したい人とすぐに話せたり、人との会話を覚えておけたりって、人の耳の力の拡張であり進化ですよね。そういった新しい音の体験を「LinkBuds」で、そしてSpotifyさんと一緒に実現してゆけたらと思います。