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Spotifyが「Loud & Clear」を通してデータを公開する意義 ストリーミングが多くのアーティストに与える機会

Spotifyは、アーティストへの支払いやロイヤリティについて解説する情報サイト「Loud & Clear」を通して、より健全で多様性のある音楽業界の実現に向けた透明性あるデータを公開しています。

Spotify及びストリーミングサービスは、音楽業界に対して具体的にどのような貢献をもたらしているのでしょうか。スポティファイジャパン音楽事業部門の新統括責任者・大西響太が、2021年の調査結果をまとめた最新情報をもとにストリーミングがより多くのアーティストに与える機会について解説します。

Spotifyは世界の録音音楽収益の20%以上を占める存在に

スポティファイジャパン音楽事業部門の新統括責任者・大西響太

▷なぜSpotifyは「Loud & Clear」を立ち上げたのでしょうか? 

大西:Spotifyはミッションとして、才能あるアーティストが作品への対価を得られ、また世界中たくさんのファンがそれらの作品を楽しめる環境を創り出すことで、人々のクリエイティビティを引き出したり、刺激することを掲げています。

2008年のサービス開始以来、このミッションの実現に向けて、Spotifyではテクノロジーを利用して、音楽の聴き方や届け方に革新を起こし、世界中のアーティストとリスナーを繋ぐことに取り組んできました。ストリーミングの広がりによって、これまでなかった方法でアーティストがリスナーに発見されたり、人気を獲得することができるようになり、国境や時代を越えて愛されるアーティストや楽曲が数多く生まれることになりました。

その一方で、未だに音楽業界がアーティストやソングライターに対して、「どういった形でビジネスを成長させることができるのか」ということをきちんと提示できていない部分もあると思っています。故にストリーミングがもたらす経済的な側面についても、より透明性をもって示す必要があると考え、Spotifyは「Loud & Clear」プロジェクトを開始しました。ロイヤリティの仕組みを始め、ここに関連する成功体験やプロセスについて、わかりやすく解説するという取り組みを音楽業界として初めて採択しました。

▷ストリーミング市場は引き続き活況のようですが、その中でSpotifyは音楽業界に対して、どれぐらいの利益を還元されているのでしょうか?

大西:より多くの人にストリーミングが音楽業界の成長に貢献していることを理解してもらうことを願って、2021年のストリーミングの成果に関する数字と調査結果など最新のアップデートを含むレポートを公開しました。そのデータを参考に説明すると、2021年にSpotifyは権利者に対して、過去最高となる70億ドルを支払っています。これは2017年に支払った33億ドルという額の2倍以上となっていて、Spotifyが創業以来、権利者へ支払ってきた300億ドルのうちの大きな割合を占めます。

70億ドルという金額は、業界が最も隆盛だった2000年のどのCD販売店よりも、またデジタルダウンロードが最盛期であった頃のiTunesよりも多く、ひとつの流通プラットフォームが音楽業界に対して支払った金額としても、最も高額であることがわかりました。

▷Spotifyは、ストリーミングを通じて、これまでにより多くのアーティストが収入を得るための機会を増やすことに取り組んできましたが、今、現在はどれくらいのアーティストがSpotifyと利益を共有できているのでしょうか?

大西:昨年初めてSpotifyで5万人以上のアーティストが1万ドル以上の収益を生み出すことができましたが、そのうちの1,000人以上のアーティストは100万ドル以上の収益を生み出しています。1万ドル、10万ドル、100万ドルの各規模の収益をあげたアーティストの数も、過去5年間でそれぞれ2倍以上になっています。また今年からは過去5年間で200万ドル以上、500万ドル以上の収益を上げたアーティストの数や増加率も「Loud & Clear」上で確認できます。さらに驚くべきことにこれら全ての収益は、Spotifyからのみで生み出されています。

IFPI(国際レコード産業連盟)が発表した数字によると、Spotifyは世界の録音音楽収益の20%以上を占めています。アーティストにはこの他にもライブツアーやマーチャンダイズといった録音音楽以外からの収益も存在します。

またSpotifyだけで年間100万ドル以上を稼ぎ出すアーティストが1,000人いるとすると、彼らは全てのストリーミングサービスを含めると年間300万ドル以上を稼いでいる可能性が高いと言われています。

▷ちなみに録音音楽収益にはどのようなものが含まれるのでしょうか。またそれ以外のアーティストの収益として挙げられるものにはどんなものがありますか?

大西:録音収益には、ストリーミング以外にCDなどのフィジカル(パッケージ商品)、*シンクロ(音楽シンクロライセンス)、ダウンロード、演奏権などが含まれます。また、アーティストの収益にはそれら以外にライブや物販の収益もありますね。ちなみにSpotifyでは、直接アーティストのライブのチケット販売や物販をしているわけではありませんが、サイトやアプリ上から各販売プラットフォームでファンが買いたいものを購入できるように誘導する導線を設けています。

*特定の楽曲の著作権者から付与される音楽ライセンスで、ライセンシーが何らかの視覚メディア出力(映画、テレビ番組、広告、ビデオゲーム、ウェブサイトの付随音楽、映画の予告編など)に音楽を同期(シンク)させることを許可するもの

アーティストがリスナーやファンとの関係を強化するためにも活用できるプラットフォーム

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▷ストリーミングの普及以降、アーティストは以前よりも自分たちの音楽の聴取傾向や収益のデータにアクセスしやすくなったと思いますが、それを機に実際にアーティストが自分たちの収益について考える機会は増えたと思いますか?

大西:どういう形で自分たちのファンを増やしていき、それを活用することによって、ビジネスチャンスを広げるかに対して能動的に考えるアーティストが増えています。例えば、Spotifyには「Spotify for Artists」というSpotifyで音楽を配信しているアーティストやその関係者向けのダッシュボードがありますが、自分たちの音楽をより広く届けるためのマーケティング施策やツアーの内容やセットリストなどを検討する際にも、こうしたデータベースを活用することができます。最近は、そういった意識自体がアーティストの中で高まってきたように感じています。

▷現在の音楽業界では、あらゆるキャリアステージにあるアーティストに、成功できる可能性や機会が広がりました。ストリーミングはその原動力になっていると思いますが、具体的には業界の各カテゴリー毎にどのような成功が見られるのでしょうか?

大西:まずレーベルとパブリッシャーは、現状過去最高の収益を上げています。Spotifyは2年連続で出版権者に10億ドル以上を支払っていますが、ストリーミングによって、世界中のアーティストはこれまで以上に収益化の機会を得られるようになりました。またレーベルに所属せずにセルフリリースするアーティストに関しても同じように収益化の機会が広がりました。

実際にデータを見ると、Spotifyから1万ドル以上の収益を得たアーティストの43%は、音楽売上市場としてトップ10に入る国や地域以外に住んでいます。このことからストリーミングによって、より多様な国や地域のアーティストも音楽業界でキャリアを築くことができるようになってきたことがわかります。

また、Spotifyから1万ドル以上の収益を上げたアーティストのうち、28%以上がセルフリリース型のアーティストです。彼らはレーベルに所属しなくても、TuneCoreなど音楽ディストリビューターを通して配信することで、収益の大部分を手に入れることができています。

▷先ほどレーベルやパブリッシャーが過去最高の収益を上げているとのお話しがありましたが、そのような状況になったことで例えば、レーベルが既存の所属アーティストや新人アーティストに投資する機会は増えているのでしょうか?

大西:レーベルやパブリッシャーがアーティストに投資する機会は増えてきていると思います。具体的にはストリーミングがきっかけになって得た収益を元手に新たにプロモーション・キャンペーンを仕掛けることなどが考えられますが、経済活動がより活性化してきたことは長い目で見て業界全体にとって良い結果につながると思っています。

またストリーミングでこれまで以上に収益を得ることができているのであれば、メジャーレーベルが投資する範疇にいない、セルフリリースをするインディペンデントアーティストであっても、その収益をデータベースを参照しながら、効率よくプロモーションに充てることができます。それとディストリビューターを通じて配信すれば、自分たちの音源が発見されるチャンスも広がりますね。そういった相乗効果がストリーミングによって生まれていると考えています。

▷収益面以外でSpotifyは日本のアーティストに対してどのような機会を与えていると思いますか?

大西:Spotifyによって、アーティストは新しいリスナーに自分たちの音源を届けられるようになりました。これはアーティストが数多くの潜在的なファンに対して、リーチできるようになったということを意味します。

その方法として挙げられるのが、多様なプレイリストと機械学習によって個人最適化されたレコメンデーションです。これによってまだ知名度があまりない新人アーティストでも自身の音楽を気に入ってくれそうなリスナーに発見してもらえる可能性が広がり、それを聴いた結果、他のリスナーにシェアするようになれば、そこでまた音楽が広がっていくことになります。そういった共有のしやすさ、シェアラビリティの高さもSpotifyの魅力です。

最近ではアーティストが国境やジャンル、場合によっては時代を越えて新たなリスナーにリーチを広げていくケースも見られるようになってきました。K-POPやラテンポップなどの特定の地域で人気を得ていた音楽が世界中にリスナーを広げ、ここから世界的なスーパースターが誕生する機会も増えています。国内アーティストの作品も世界に届けられるのはSpotifyの強みです。

またストリーミングの時代になってから楽曲へのフィーチャリングに代表されるような、アーティスト同士のジャンルや国を超えたコラボレーションも増えています。あるアーティストと別のアーティストがコラボレーションすることで、そのコラボレーションしたアーティストの音楽をよく聴いているリスナーにも自身の音楽をレコメンデーションされやすくなるので、より広いそうに聴いてもらうきっけかになると言えますね。

加えてSpotifyは、音楽を聴きながら歌詞を読み込んだり、お気に入りのアーティストと一緒に歌える「シンガロング」など、アーティストとリスナーとのより深い関係を作っていくための機能も多数持っています。プレイリストやレコメンデーションで自身の音楽に出会ったリスナーにも、こうした機能を通じてより深い世界観を知ってもらうことができ、さらなるファンになってもらうことができるかもしれません。Spotifyはリスナーを広げるだけでなく、アーティストがリスナーやファンとの関係を強化するためにも活用できるプラットフォームだと考えています。