Spotifyの使い方

「あなたらしさ」が反映されたコンテンツの提案:パーソナライゼーション担当バイスプレジデント、オスカー・ストールがその仕組みを解説

Spotifyのユーザーの中でも、新しいアーティストの開拓に熱心な音楽ファンなら、月曜日と金曜日を毎週待ち望んでいるのではないでしょうか。月曜日は、過去の聴取傾向に基づいて、ユーザーの趣向に合いそうな曲を提案するプレイリストDiscover Weeklyの更新日。そして金曜日には、ユーザーのお気に入りアーティストの新曲をまとめたRelease Radarが更新されます。さらにSpotifyのエディターが編成したプレイリストや、ユーザーが作成したプレイリストにも、日々パーソナライゼーションの要素が加えられています。

実は、Spotifyのアプリをダウンロードしてサインアップした直後から、パーソナライゼーションは始まっています。サインアップを終えた新規ユーザーは、ホームページでお気に入りのアーティストをいくつか選択するよう促されます。その瞬間から、Spotifyはそのユーザーが気に入りそうなアーティストの情報を学習し始めるのです。「しかし、これはSpotifyの聴取体験をより個人に最適化する仕組みのごく一部に過ぎません」とパーソナライゼーション担当バイスプレジデントのオスカー・ストール(Oskar Stål)はいいます。

パーソナライゼーション機能の誕生

​​パーソナライゼーションとは、その名のとおり、Spotify上でユーザーが受け取るコンテンツを、その人の好みに合わせてカスタマイズ(=パーソナライズ)することです。パーソナライゼーションは、今やSpotifyでの体験の鍵を握るものと考えられていますが、私たちは当初からこの要素に注力していたわけではありません。15年前のローンチ時、Spotifyはユーザーが知っている、かつ興味のある曲を再生できる図書館のようなプラットフォームを目指していました。しかしオスカーいわく、時間が経つにつれ、エンジニアたちは「もしもSpotifyで新しい音楽を発見できるようになれば、ユーザーの楽しみが増すだろうし、ほとんどの人は忙し過ぎて能動的に音楽を探す時間さえないだろう」と気づきました。

「3人の子供がいて、自分で音楽を見つける時間がない46歳の父親とかね」と自分を指さしながら、冗談めかして語るオスカー。「インスピレーションを求めている学生も同様です。人々が欲しているのは、自分の好きなものと好きそうなものが混ざっていると確信できるようなコンテンツの提案です。それが実現できれば、ユーザーのエンゲージメントレベルの向上が期待できます」。

オスカーによれば、パーソナライゼーション機能の導入によって、ディナーパーティーやロードトリップのたびにプレイリストを作る時間も知識もないリスナーを応援できるようになり、熱心な音楽ファンでなくとも、毎年数多くの新たなお気に入りのアーティストを発見できるようになりました。そして最も重要なことは、パーソナライゼーションによって、ユーザーがより多くの時間過ごしたくなるような(その一方で中毒にはならないような)アプリ体験を作りあげられたこと。Spotifyのアプローチを一言で表現するならば、リスナーが「満足感を味わえるコンテンツ体験を提供すること」です。

「もしもユーザーの滞在時間をあと3分延ばしたければ、それぞれのユーザーがすでに気に入っている曲を20曲ほどループさせればいいのです。しかしそれでは新しい音楽には出会えませんし、最終的にユーザーは飽きてしまいます」とオスカー。

Spotifyは、Discover WeeklyやRelease RadarといったAIが作成してくれる定番のプレイリスト以外にも、リスナーが楽しめるようなパーソナライゼーション機能の拡充に努めています。今年に入ってから、リスナーが好きな、もしくはきっと気に入るであろう音楽を、ジャンル、アーティスト、年代別に分類したプレイリストSpotify Mixを公開しました。さらに先月実装したBlendでは、2人のユーザーの好みを組み合わせ、それぞれの趣向が反映されたプレイリストの作成、共有ができます。そして直近では、ユーザーが作ったプレイリストに合いそうな曲を提案してくれる「拡張」機能を導入しました(ユーザーは自分でオン、オフを切り替え可能)。

これらの機能に加えて、「アルゴトリアル」プレイリストと呼ばれるものがあります。アルゴリズムとエディトリアルからなる造語を冠したこれらのプレイリストには、Spotifyのエディターが特定のムードや瞬間を呼び起こすために選んだ(エディトリアル)曲に加えて、個々のユーザーの好みに合わせてAIが絞り込んだ(アルゴリズム)曲が収録されています。人気プレイリストの「Songs to Sing in the Car」はパーソナライズされていないように見えるかもしれませんが、実はされています」とオスカー。「テーマに則って選曲された『車の中で歌いたくなるような曲』と、ユーザーの好みに基づいてAIが提案する曲がこのプレイリストの中に収録されています。Spotifyにおけるリスニング体験は決して画一的なものではなく、ユーザーひとりひとりのニーズやウォンツに沿って、深くパーソナライズされた3億6500万以上の異なる体験がそこにはあるのです」。

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パーソナライゼーションはどのような仕組みなのか?

その答えは機械学習にあります。複雑なコードベースのシステムが何千という情報を組み合わせ、一瞬のうちにひとつの曲を提案する、というのが大まかな流れですが、詳しくはオスカーに説明してもらいましょう。

「音楽の好みが似たふたりがいて、お気に入りのアーティストトップ5のうち、4位までは同じ、5位だけが違うとしましょう。私たちはふたりの意見が合わなかった5位のアーティストに注目し、『うーん、もしかしたらそれぞれが相手の5位のアーティストを好きになるかもしれない』と考え、提案するわけです。実際にはこのプロセスをスケールアップし、1対1ではなく、何千、何百万という数のユーザーの好みを瞬時に解析して、常に情報を更新しています。Spotifyでは、検索、聴取、『いいね!』などのアクションが毎日5億件近く発生しており、これが機械学習システムを動かし、導いているのです」。

機械学習技術は、Spotifyの成長とともに急速に進歩し、かつては夢にも思わなかったようなことを実現できるようになりつつあります。その結果、パーソナライゼーションの方向性や、リスナーに提供できるサービスも進化しています。「機械学習の飛躍的な進歩により、ユーザーが新しいコンテンツを発見するための方法を深く考慮できるようになりました。従来の機械学習技術では、『この曲が好きなんですね。それなら似たような曲をおすすめしますよ』という即時的なソリューションに焦点を当てたユースケースが大半でしたが、今ではコンテンツや、リスナーとクリエイターの関係性をより深く理解した上で提案するようになりました」。

Spotifyにおけるパーソナライゼーションの未来

音声コンテンツの中でも、ポッドキャストは特に大きな可能性を秘めています。その理由のひとつは、ユーザーからのインプットです。音楽の場合、多くの人が20秒ほどで好き嫌いを判断する一方、あるポッドキャスト番組やエピソードが好きかどうかを判断するには、もっと時間がかかります。しかし、Spotifyはポッドキャスト発掘の領域でも素晴らしいスタートを切っているとオスカーはいいます。「私たちはポッドキャスターとリスナーを結びつける、世界最高のレコメンデーションアルゴリズムの開発に向けて、多大な投資を行っています。10年以上にわたって積み上げてきた音楽のレコメンデーションに関する知見のおかげで、私たちのシステムはすでにかなり洗練されています。しかも音楽の好みに基づいて、リスナーがどんなポッドキャストを気に入るかさえ予測できることもわかっています」。

パーソナライゼーションの影響と可能性は、これだけにとどまりません。リスナーにとって便利で楽しいものであると同時に、パーソナライゼーションはファンを増やしたいと考えるクリエイターにとっても不可欠な存在です。Spotifyの機械学習技術は、アーティストやジャンル、さらには国といった垣根を越えて、クリエイターとリスナーをマッチできるように設計されています。

「パーソナライゼーションは、まさに双方向型の技術です。私たちがこれまでに得てきたインサイトによって、フィンランドのアーティストの曲がラテンアメリカでヒットするかもしれない、といったことがわかるようになりました。そしてSpotifyは、パーソナライゼーション機能を通じて、その音楽をラテンアメリカのリスナーに届けることができるのです。するとアーティストは縁もゆかりもない地域のオーディエンスにも、自らの存在をアピールできるようになります」。

現在では当たり前のように感じられるパーソナライゼーション機能が、ローンチ時のSpotifyには備わっていなかったことからもわかるとおり、パーソナライゼーションには私たちの予想をはるかに上回る可能性が秘められています。「パーソナライゼーションは聴取体験に不可欠です。私たちが目指しているのは、リスナーを総合的に理解し、短期的なクリック数ではなく長期的な満足度の向上に向けて、より充実したコンテンツ体験を提供することです。リスナーはいわば発見の旅をしているのですから、Spotifyにある何百万ものコンテンツを発見する際には、最高の体験をしてもらいたいのです」。