クローズアップ

デジタル音声広告のクリエイティブアワードが日本初開催 「Spotify Hits」レポート

 Spotifyは10月15日、青山のSHARE GREEN MINAMI AOYAMAにて、広告事業者および広告会社向けのイベント『Spotify Sessions: Hits Edition』を開催しました。

20241105 spotifyhits00003

 開演前の会場では、Spotifyのプレイリスト「daylist」のカラーリングに合わせた世界各国のお菓子や淹れたてのコーヒーが参加者に振る舞われたほか、さまざまなクリエイターが自分にとってのSpotify(My Spotify)について語る映像なども上映されていました。

20241105 spotifyhits00006

 イベントは、Spotify グローバル広告営業とパートナーシップ最高責任者のブライアン・バーナーによるスピーチからスタート。「クリエイティビティはSpotifyブランドの中核をなすもの。私たちは、Spotify上でユニークなインサイトや体験を実現するために、ブランドとの提携を続けています」と語り、グローバルで成功した事例として、米国のセブンイレブンと提携した「Slurpee Song of the Summer」を挙げました。このキャンペーンは、セブン-イレブンとSpotifyがすでにZ世代やミレニアル世代と築いている強いつながりを活かし、セブン-イレブン店舗への来店促進を狙ったもの。Maiya The Don, 2Rare & Kari Fauxによるブランド・ソング「Anything Flows」や、店舗で買い物をするとミュージックビデオに出演できるチャンスを作ることで多くの集客を行ったほか、楽曲も数百万回の再生を記録し、Spotifyの主要プレイリスト「RapCaviar」にも収録。Spotifyのユーザーインサイトを活用し、消費者のエンゲージメントと店頭販売を促進すると同時に、ブランドとカルチャーとのつながりを示す素晴らしい例となりました。

20241105 spotifyhits00007

 バーナーはほかにも、Spotifyが日本でのマーケットシェアを拡大し続けていること、消費者が1日に2時間近く利用するプラットフォームであり、絶え間ないニュースフィードに邪魔されることなく、エンゲージされたオーディエンスにブランドストーリーを伝えることのできる場所だと語りました。今年からは「ミュージックビデオ」「ビデオポッドキャスト」などの新機能を導入することで、視覚と聴覚の両方でより楽しめるプラットフォームとしてイノベーションを起こし続けることを約束しました。

 続いての「Award Ceremony (授賞式)」には、Spotify Japan 執行役員 営業本部長の田村 千秋、アワード審査員の株式会社 博報堂 執行役員 嶋浩一郎さん、株式会社 電通 CXCC局 クリエイティブディレクター 田中寿さん、Spotify Japan広告事業部統括 立石 ジョーが登壇し、受賞作品を表彰しました。なお、審査には3名のほかに、Spotify Japan プロデューサーの殿村 博、コンシューマーマーケティング統括の川崎 愛、Spotify アジア太平洋地域 クリエイティブストラテジー統括のヴァネッサ・ゴーも名を連ねています。

 アワードは「グランプリ (Spotify Mic Drop) 」に加え、音声広告を活用し革新的な方法で効果的にブランドのメッセージを届けた「ベストオーディオキャンペーン (Future Sounds)」、そこに動画など複数の広告フォーマットを組み合わせ、Spotifyならではのアプローチで高い成果をもたらした「ベストマルチフォーマットキャンペーン (Sound &Story)」の2部門が設置され、最終審査に残ったのは30作品となりました。

20241105 spotifyhits00001

 「ベストオーディオキャンペーン (Future Sounds)」では、CHOCOLATE Inc.の企画・制作による、アース製薬株式会社の「アースノーマット 小島よしお音声広告」が受賞しました。アース製薬株式会社 コミュニケーションデザイン部 部長の小泉ユミさんは「使用者がやや高齢化しているなかで、若い世代に蚊の不安から家族を護ってくれる製品だということを強く訴えたいと思い、小島さんを軸に様々なタッチポイントを想定した。媒体選定の背景としては ”ながら聴取” できるメディアであること、立体的な音の効果を最大限引き出せることが鍵だった」としたうえで「蚊が飛び回っている音も効果的に表現していただき、数値的な成果においても通常のキャンペーンよりコスト効率が高かった」とし、関係者への感謝を伝えました。

20241105 spotifyhits00002

 また、「ベストマルチフォーマットキャンペーン (Sound &And Story)」の受賞作品は、株式会社電通デジタルと株式会社電通が共同で企画・制作したエスエス製薬株式会社「ドリエル20周年 世界の子守歌キャンペーン」に。作品を手がけた株式会社 電通 CXクリエーティブ・センター クリエーティブ・ディレクターの川田琢磨さんは「ドリエルという睡眠改善薬が2024年で発売20年を迎えるということで、普段と違ったアプローチができないかということで始まったもの。少し前にSpotifyのみなさんに協力いただいて、電通デジタルでワークショップを開催し、クライアントの皆様と音声広告を企画したのですが、さまざまな企画案のうちの一つに”子守唄”企画があり、それがきっかけになりました」と話したあと「子守唄って世界中にあるよねと気づいたこと、どの国でも子守唄に込められたメッセージは「あなたがよく眠れますように」という内容で、世界共通であること、それはドリエルに込められた願いと同じだと気づき、この方法で発信することにしました」と背景を語りました。

20241105 spotifyhits00009

 グランプリの「Spotify Mic Drop」は、株式会社博報堂の企画・制作による日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社の「知られざる定番「和カツバーガー」リローンチキャンペーン『Yes! 和カツ食いに行く』」が受賞。企画を担当した株式会社博報堂 関西支社統合プラニング局の原田真由さんは「ケンタッキーに和風チキンカツバーガーという定番商品があるが『好きな人はすごく好きだが知らない人もいる』という状態で『和カツ』と略してリローンチするタイミングでした。知られざる定番をみんなの定番にしたいということで『和カツ』と『高須』で韻が踏める、さらに「クリニック」と「食いに行く」で韻が踏めると思い、そのままキャンペーンワードとして使おうと高須クリニックさんに相談しに行ったところ快諾いただいた。さらに楽曲を作ったアーティストさんにも相談しに行ったら、ぜひやりたいということで活動休止中にも関わらず制作してくださったし、揚げる音を使用して映像のない状態でおいしさを想起させることもできた。Xでも『高須かと思ったら和カツかい!』といったような投稿も散見され、プラットフォームを超えた効果を感じることができた」と喜びを明かした。

 その後、Spotify Japanの田村と審査員の嶋さん、田中さん、そして各受賞作品代表、原田さん、CHOCOLATE Inc. クリエイティブディレクターの市川晴華さん、川田さんの6名によるパネルディスカッションへ。まずは日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社の「知られざる定番「和カツバーガー」リローンチキャンペーン『Yes! 和カツ食いに行く』」がグランプリを受賞したことについて、嶋さんは「これ、相当口ずさんじゃいますよね。Spotifyということで音楽を使った広告が多かったけど、これは原曲が全く違う会社のCMソングなのに、リスペクトを払いつつ全く違う世界観で蘇らせたのが大きい。細かく聴いても、ディティールまですごく研究されていた」、田中さんは「一番頭から離れなくて、お風呂の中でも浮かんでくる感じ。プラットフォームとして音楽を大事にしているSpotifyのなかで最高のドアノック。音楽をコンテンツに昇華した感じがすごくフィットしている。これを実現したスタッフさんの各所への交渉をはじめとしたチームワークも含め、羨ましいと思った」とコメント。企画を手掛けた原田さんは「交渉するなかで、アーティストの方は原曲の良さを活かしつつ、Spotifyで流れた時にリスナーに嫌がられないようアレンジしてくださった。原曲が『beautiful smile』という曲なのですが、最初はWeb動画用にアレンジしていたものを、さらに音声用に歌詞を変え、より媒体にマッチするようにしました」と明かしました。

 続いて「ベストオーディオキャンペーン (Future Sounds)」を受賞したアース製薬株式会社の「アースノーマット 小島よしお音声広告」について、嶋さんは「Spotifyのユーザーは8割がイヤホンで聴いているというのを意識して作られた蚊の羽音のインパクトがすごい。サウンドエフェクトと声の組み合わせ方も含め、パッケージングの作り方がすごいなと思った。メロディと言葉の相性なども考え尽くされていた」、田中さんは「広告に留まるか、音楽になっているかの差は大きい。先ほどのケンタッキーのクリエイティブがそうだったように、韻まで計算していているか。それらの足し算がうまくいって絶妙なバランスになっているんだなと思った」とコメント。市川さんは「こんな会場で流していただいて嬉しい。改めて効果的な演出だなと思った。最初はもっとラジオCM的なアプローチ、ストーリーがあるものを考えていたが、アース製薬さんに相談したときに小泉さんから『もっと音楽的なアプローチがあった方がいい』とリクエストいただいてこの形になった。蚊の音はSpotifyの殿村さんが実際に蚊を採取してその音を録音したものを使っている」と裏側を語りました。

 最後に「ベストマルチフォーマットキャンペーン (Sound &And Story)」受賞作品のエスエス製薬株式会社「ドリエル20周年 世界の子守歌キャンペーン」について、嶋さんは「寝落ちしそうになるくらい優しい。この部門の作品って、体験設計に近い。このシチュエーションでどう聞いてどう体験するのかというのが考えられているし、商品広告の枠を超えてブランド広告として出来上がっている。ある意味エスエス製薬のオウンドメディアとしても機能している気がする」と語ると、田中さんは「ドリエルって睡眠導入剤で、それって困っている人が飲むもの。困っている人が求めるものって優しさとかそういうものだと思うし、そこから外れていない感じがいい。デザインも長さもいいし、クライアントが持っている良さをちゃんと落とし込めている」とコメント。川田さんは「この企画をいいねと言ってくださったクライアントの皆様の選球眼がすごいなと思いましたし、最初は音声広告の提案から始まって、スペシャルサイトを作るパッケージがSpotifyにあるというところから、プレイリストとの連動、動画の制作まで行って、施策を広げていくことができた。それに協力してくれたクライアントの皆様とSpotifyのみなさんのおかげで作り上げることができたと思う」と喜びを伝えました。

20241105 spotifyhits00010

 その後、審査員のお二人から受賞者のみなさんへの質問タイムを挟み、再び田村・嶋さん・田中さんの3人で受賞作品以外で印象に残った作品を、Spotify広告において重要な3つのキーワード「ファンダム」「リズム」「パーソナライゼーション」に沿って紹介していきました。

 まずは「ファンダム」の文脈で印象に残っているキャンペーンについて、嶋さんはアサヒビール株式会社の“マルエフ”こと『アサヒ生ビール』の施策であるSpotifyのプレイリストシリーズ「RADER:Early Noise」とタイアップしたキャンペーンを紹介。「Spotifyの世界観とミュージシャンの世界観、ブランドの世界観が三方良しで合致しつつ、うまく消費者のツボを押さえている広告だと思います」と評価しました。

 続いて、「リズム」の文脈で印象に残っているキャンペーンについて、田中さんはサントリーホールディングス株式会社の『金麦』の広告を挙げ、「1日のリズムのなかでもコンパクトなところに当たるように設計されている。タイミングが設計された広告はもはやシズル広告になっているし、それがピタッとハマるとすごく飲みたくなる」とコメント。田村が「通勤の帰り道の時間帯をジャックするように、月曜から日曜まで毎日違うクリエイティブが出るようにしていて、個人的にも刺さった」と補足した。

 続いて「パーソナライゼーション」の文脈で印象に残っているキャンペーンについて、嶋さんは「アニソンもヒップホップも好きな人がいるなかで、三井住友カード株式会社さんのナンバーレスカードを広める音声広告施策が面白いと思った。それぞれのジャンルのファンを狙って、アニメ好きの人には声優さんの声が、ヒップホップ好きの人にはラップの音声が流れるようにしたというのもすごいなと」と、セグメントをしっかりと絞ってそれに対するクリエイティブを作った事例を評価していただきました。

 最後に、今回のアワードを通して考える「音声広告の価値」について、嶋さんは「音声広告は“ながら”でも聴けるところがすばらしい。そのうえでSpotifyはユーザーが能動的に聴く気満々な感じもあるので、ポジティブなリスナーに対してリーチできる。ただ、アーティストやミュージシャンの世界にお邪魔する形なので、そこをうまく汲み取ることが重要」と語ると、田中さんは「音声広告の良さって“余白”だなと思います。『初恋の人を思い浮かべてください』というとそれぞれが別の方を思い浮かべるように、余白を残していることが究極のパーソナライゼーションになる。それが聞き手のクリエイティビティを発動させる」とそれぞれの音声広告論について述べ、トークが終了しました。

20241105 spotifyhits00005

 広告に関するセッションの後には、Michael Kanekoによるライブパフォーマンスも。「Daydreams」や「Strangers In The Night」などの 人気楽曲で会場を盛り上げました。また、イベントの最後にはネットワーキングの時間も設け、広告主とSpotifyメンバーとで交流を深めたのち、この日のイベントは終了しました。

20241105 spotifyhits00008