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Spotifyオリジナルポッドキャスト番組『Hideo Kojima presents Brain Structure』が世界的ゲームクリエイターの天才的な頭脳を解き明かす

「メタルギアソリッド」シリーズや「DEATH STRANDING」などの世界的なヒット作を手がけたトップゲームクリエイター小島秀夫監督がパーソナリティを務めるSpotifyオリジナルポッドキャスト「Hideo Kojima Presents Brain Structure」が本日より日本語と英語でお楽しみいただけます。

番組では、ゲームや映画、音楽、本、アート、哲学、社会情勢などの多岐に渡るテーマについてのトークを通じて、小島秀夫監督の卓越したアイデアやクリエイティブな発想が、どのようにして生み出されるのかを探求していきます。

また、ビジネスやテクノロジー、エンタテインメントなどの各界を代表するリーダーやクリエイターを国内外からゲストに迎えての対談回も予定しており、さらには、ゲームジャーナリスト兼テレビ司会者として広く知られるジェフ・キーリーが欧米発の最新ゲームおよびテック関連ニュースをお届けするコーナーも常設されます。

Spotifyでは、番組の配信開始を記念して、小島秀夫監督にインタビューを行いました。以下がその内容です。


  1. 『Brain Structure』という名前に込められた意味、また、ファンがこの番組に期待できることを教えてください。

以前は、クリエイターは自ら多くを語らず(私生活も)、作品だけで評価、理解をしてもらうべき、とみなされていました。しかし、このSNSの時代では、世界中のファンの皆さんへ直接、語りかけることができます。その技術と機会は、使うべきだと考えています。

よくメディアやファンの人たちから、「ヒデオの頭の中は一体どうなっているのか?」と質問されます。クリエイターの普段の脳内構造(Brain Structure)、思考回路、シナプスへの電流の流れを少しでもお見せできればと思います。

この番組では、物創りのプロセスや考え方、手法、技だけではなく、そこに至る、僕が出会ったさまざまな“刺激”を共有できるようにしたい。それは日常生活にある、人、映画、本、音楽、美術などとの出会いから生まれた“刺激”です。それらは、みなさんが日常で触れるものとは違う、あるいはすれ違ってしまった”刺激”かもしれません。

MRIを使うわけではないですが、声だけで「ブレイン・ストラクチャ(Brain Structure)」を伝えるこころみです。

2. なぜ今回、このポッドキャスト番組を始めようと思ったのでしょうか?

2005年から自前のポッドキャスト“ヒデラジ”を長い間やってきました。ラジオ世代だったこともあり、物創りと並行しながらも、未熟で孤独だった子供の頃にお世話になったラジオという媒体に恩返しがしたいとも思っていたからです。それが時代の変化と共に形を変え、映像配信になり、独立後は、“ヒデチュー”となりました。

ただ製作が忙しくなり、発信することからは遠のいてしまいました。しかし、このコロナ禍を経験し、他者との“繋がり”の大切さを再認識しました。

そんな時、ラジオ(ポッドキャスト)の再開を実験的に1シーズンほど配信しました。日本国内からの反響はよかったのですが、海外のファンからは、SNSを通じて「自分の国(エリア)では聞けない!」「日本語だとわからない!」との切実なる意見をいただきました。この声は無視できない!と、英語翻訳を付加した全世界配信のポッドキャストをすることにしました。この無謀な試みに賛同していただけたのがSpotifyさんでした。世界中のファンとの対話、これがうまくいくかどうかはまだわかりませんが、新たな挑戦にワクワクしています。

3. 小島監督のクリエイティブ・プロセスの中で、最もユニークな部分は何だと思いますか?

企画、アイデア、世界設定、キャラ設定、プロット、ストーリー、脚本、仕掛け、ゲームデザイン、イベント、演出、音設計などなど、全てを同時並行的に自分で創りだしながら、仕上げまで向かう。それが他と違うところでしょうか。

また毎日、それらにディテイールを加え、マスターアップのギリギリまで修正をし続けていることも特徴です。それが「A HIDEO KOJIMA GAME」の強みです。映画もゲームも、大人数の作業なので、普通は分業です。また川上から川下への一方向への流れがあるので、出来たものを順番に創り、完成(川下に降りる)に向かうしかないので、後戻りはできません。僕の場合はそこを毎日、確認しながら、同時にブラッシュアップしているので、無駄のない逆行と修正、それが可能です。設定とデザインが決まり、モデルも作成し終わったキャラクターであっても、あるシーンでセリフを変え、より効果的に機能するように、設定やデザイン、役割までをもフレキシブルに修正、付加することができます。ピクサーの映画が、カットごとに最後まで修正を続けているのと近いかもしれません。

もちろん、ひとつのキャラの小さな変更はシナリオやシーン、ゲームデザイン全般、既に完成している部分にも影響が出ます。シナリオバグを生む危険性もあります。普通のゲームスタジオではできないことですが、そこがやれるのは大きいです。

4. The Game AwardsやSummer Game Festを牽引してきたジェフ・キーリー氏は、番組内で、どのような話をするのでしょうか。

ジェフは米国西海岸に拠点を置いていますが、全世界を飛び回り、グローバルな活動をしています。ゲーム業界はもちろん、映画業界、音楽業界との繋がりも広く、深いです。ビジネスや関係業者だけではなく、クリエイターとも深く関わっています。そんな彼に今、業界で起こりつつある、現在進行形の現象、ムーブメント、問題や朗報、意見など、最先端で最新鋭のニュースをどこよりもはやく、現場からリポートしてもらおうと思っています。非常に貴重なコーナーになるとかと思います。

フェイクや憶測が飛び交うSNSとは違い、ジェフの現場密着から発信される確実なるニュースソースとなります。世界各国のゲームショーからの直接リポートなどもあるかもしれません。僕も非常に楽しみです。

5. 小島監督の映画への愛は、ゲーム制作に大きな影響を与えていると思われます。映画制作のクリエイティブな要素がビデオゲームにも応用できると気づいたのはいつでしょうか?

まず誤解を解く必要があります。僕の物創りは、映画だけではなく、小説や音楽、芸術、教育、これまでに吸収、咀嚼してきた人生経験のすべてから影響を受けています。

僕がゲームを創り出したのは1986年。当時のゲーム機の表現能力は極限られたものでした。ドット絵で色数も出ず、BEEP音なので、音声も音楽も鳴りません。アニメーションも単純なものでした。キャラクターには顔も表情も声も、個性も背景もない、記号でした。ただそんな中でも画面レイアウトや物語のストーリーテリングはある程度、可能でした。そいう意味では映画や小説から得た演出手法は当時からすでに使えました。物を語ること(ストーリーテリング)こそは、人間のプリミティブな行為だからです。

そこから技術が進化し、色数が増え、解像度が高くなり、媒体がCDROMになり、音声や音楽、映像(当時は画像圧縮されていた)が流せるようになりました。まだリアルタイム3Dになる前です。もうこのあたりから、音響効果も含め、映画や舞台の手法が効果的に使えるようになりました。

次に3Dポリゴンになり、カメラワークが使えるようになりました。これは画期的でした。そしてグラフィックやフレームレートの向上で俳優たちの繊細な動きや演技、また映画では重要なライティングの概念をゲームに持ち込むことができるようになりました。

正直なところ、1986年時点では、ここまで急速に進化するとは思いませんでしたが、当時から「ゲームはいつか映画を超える総合芸術になる」と信じていました。芸術は、時代や場所を越えて人に何かを語り伝えるもの。洞口に壁画を描いた時代から、人間とともに存在していました。物創りは人類の歩みそのもの、人生経験そのものの反映なのです。その確信と信念があってこそ、ゲーム業界に飛び込み、今も創作を続けているのです。

番組を通して、小島監督の世界観に是非、触れてみてください。