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ニューヨーク大学がSpotifyと共同でポッドキャストによるジャーナリズムの講座を開講

写真提供: Jorge Corona / ニューヨーク大学

ニューヨーク大学の学生の多くは、年間履修計画を早々に固め、冬期と夏期の講座もずいぶん前から決めています。しかし、同大学のジャーナリズム大学院が昨年12月に、Spotifyとの提携による新しい短期講座「Podcasting and Audio Storytelling」を1月から開講すると発表したところ、またたく間に200人から履修申込が殺到しました。

この講座が関心を集めたのには大きな理由があります。ポッドキャストの聴取が2014年から2019年の間に3倍に増え、特にジャーナリズム系のポッドキャストが伸びていたことです。

ポッドキャストはすでにジャーナリズムに変革をもたらしていますが、ジャーナリスト志望者がポッドキャストの構成や制作を学ぶ機会はまだ限られています。Spotifyのコンテンツ部門最高責任者であるドーン・オストロフと、ニューヨーク大学のアーツ&サイエンス学部のアントニオ・メルロ学部長が話をするなかでも、その点が話題に上りました。

メルロ氏は、こう語っています。「ポッドキャストは急速な拡大と変化を遂げ、人材ニーズや雇用機会が劇的に増えていますが、この魅力的な分野で仕事をするための専門的な訓練を受けた学生の供給が追いついていません。この課題について意見交換をするなかで、Spotifyの根底にある革新、起業家精神、先見性という気質は、高等教育機関のトップを走るニューヨーク大学のDNAと共通するものだと感じました。Spotifyとニューヨーク大学が提携してポッドキャストの講座を開設するというアイデアは、双方にとってまたとない機会でした」

この講座ではニューヨークの公共ラジオ局WNYCの元記者であるオードリー・クイン氏と、Voxのポッドキャスト『Go for Broke』の司会を務めるジュリア・ファーマン氏が講師となって、15人の受講生を相手に4週間の集中講座を開催しました。さらに、前述のドーン・オストロフのほか、Spotifyスタジオのグローバル責任者であるコートニー・ホルト、Spotify傘下のプロダクションであるGimletの共同創業者であるアレックス・ブランバーグとマット・リーバー、GimletのマネージングディレクターでHuffPostの元編集長であるリディア・ポルグリーンといったポッドキャストに精通するSpotifyの幹部らが、ゲスト講師として参加しました。

「それぞれの分野の第一人者である各講師の洞察と視点は、本講座の寄って立つところを明らかにするとともに、ポッドキャストに関するいくつかの重要な問いについて考えるきっかけになったと思います。アイデアを広げ、市場を分析し、番組として形にするにはどうすればいいのか?閃いたアイデアをもとに制作し、配信するにはどうすればいいのか?どのようなフォーマットやジャンルが人気があるのか?マネタイズを実現するにはどうすれば良いのか?こういった点を様々なゲスト講師と日々考えることで、学生たち自身で答えを導き出せるようになっていきました」

メルロ氏は、この講座がジャーナリズム大学院のプログラムでありながら、ニューヨーク大学の学生であれば専攻を問わず受け入れたという点についても強調しました。マネタイズ、制作、サウンドデザインについて考えるのは、エンジニアリングや経営を学ぶ学生も興味を持つはずです。講座の定員は15人でしたが、募集の段階では、専攻、バックグラウンド、ポッドキャストへの関心の有無にとらわれず、多種多様な学生からの申込を受け付けました。

学生は履修申込の際に提出したポッドキャストの企画案を講座のなかで練り上げていき、最終週には、Spotifyのエンジニアの力を借りながら、短い番組紹介や予告編を制作しました。これをSpotifyのクリエイティブ部門の幹部や講師にプレゼンし、フィードバックを得て修了となりました。「体験学習は大学教育で非常に重要な要素のひとつです。いかなる講座も、学生が情報を自分のものにできなくてはなりません」とメルロ氏は言います。

また、今回の講座が学生に好評を博したことから、次は複数のセッションを実施することを考えていると話すメルロ氏。今後はニューヨーク大学とSpotifyのチームで、個別対応が可能な少人数の講座と、ニーズに応えられる規模のセッションを実施する計画があるほか、同氏としては、ポッドキャストの講座を年間3つから5つほど追加する予定で、学部生や院生向けにポッドキャスト認定プログラムを設けるなど、より幅広く大学の授業に取り入れたいと考えています。

ニューヨーク大学のような教育機関が、ニュースメディアの変化に対して迅速な対応を見せるのは、これが初めてではありません。メルロ氏は言います。「ジャーナリズムの世界でこの25年間に生じた変化を数えていけば、グーテンベルクが活版印刷技術を発明してからの100年間で生じた変化と同じくらいの数になると思います。ニュースとして認められるための要件、ジャーナリストとして認められるための要件、ニュースの流通手段など、これまでのジャーナリズムで一般に当たり前だと思っていたことが、今や当たり前ではなくなっています。ここで指摘しておきたいのは、ジャーナリズムは今、ポッドキャストをただの配信手段ではなく、あらゆる報道トピックにそれぞれ最適な形で取り入れ可能な表現形式と見なすようになったということです」

ポッドキャストは、世界中のクリエイターとリスナーにインパクトを与え続けており、この手法が取り入れられる分野はますます増えています。そして、ジャーナリズムはそのひとつにすぎません。ニューヨーク大学の今回の講座は初の試みとなりましたが、これで終わりというわけではありません。

最後にメルロ氏はこう言います。「学位とは何か、教育の意味とは何かを問うという重責は確かにあります。ただ、こうした呪縛にとらわれすぎず、よりダイナミックかつ、クリエイティブな方法で、何かを作り出す新たな機会を学生に届けていきたいと考えています。これからが本当に楽しみです。」

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