ダニエル・エク
クローズアップ

オーディオファースト

ダニエル・エク

By ダニエル・エク

ダニエル・エクは、Spotifyの創業者兼CEOであり、同社の総合的なビジョンを策定しています。ストックホルム出身のエクは、2006年にSpotifyを創業しました。

10年以上前、私たちはいつでもどこでも適切な価格で聴ける音楽という、それまで不可能だと思われていたものを消費者の皆様に提供するためにSpotifyを創業しました。

以来今日に至るまで、私たちは、業界の悩みの種だった違法ダウンロードの問題を解決し、有料のオンデマンドストリーミングを通じてグローバルな音楽市場の成長を復興させてきました。私たち自身はこれまでやり遂げてきたことを誇りに思っています。しかしながら、2008年に消費者向けのサービスを開始した時には、音楽だけではなくオーディオすべてがSpotifyの未来につながるとは考えてもみませんでした。

世界中に2億人を超えるユーザーを抱えるSpotifyは、すでに世界で最も普及しているアプリのひとつですが、私たちの現在地とは別の場所にチャンスはあります。私たちには音楽を超えた全く新しい方法で、ユーザーエンゲージメントを獲得するチャンスがあるのです。

分かりやすく説明するために、動画業界の現行価値を例に挙げてみましょう。

消費者が動画を視聴する時間とオーディオに費やす時間の長さはほぼ同じです。動画業界の市場規模は約1兆ドル。それに対して、音楽やラジオ業界の市場価値は約1000億ドルです。ここでいつも「私たちの目は、本当に耳よりも10倍の価値があるのか。」という疑問が頭に浮かびますが「そうではない」と私は確信しています。

例えば、今でも1日に2時間以上ラジオを聴いている方々がいます。私たちは、そのラジオリスナーをSpotifyに取り込みたいのです。そうすることで、私たちはユーザーのエンゲージメントを深め、新しい方法で価値を創出することができます。テレビやデバイスの画面を見る時間を減らすことに世界的な関心が集まる今、オーディオには大きなチャンスの扉が開かれているのです。

このチャンスは、オーディオの次の成長段階から始まります。それが、ポッドキャストです。エンタテイメントや教育といった目的のため、あるいは課題やひらめきを与え、人々をひとつにまとめて、文化の壁を壊してストーリーを伝える方法は無限にあります。そのフォーマットはまさに進化の途上にあります。

ビジネスとしてのポッドキャストの市場規模はまだ比較的小さいと言わざるを得ないのですが、この分野においては、特にSpotifyにとっては素晴らしい成長の可能性がそこに秘められていると考えています。

2年もたたぬうちに、私たちは世界で2番目に大きいポッドキャスティングプラットフォームへと成長しました。さらに重要なことは、ユーザーが、Spotify体験の一部としてポッドキャストを非常に気に入ってくれているということです。

Spotifyのポッドキャストユーザーは、ほかのユーザーのほぼ2倍の時間Spotifyを利用し、音楽を聴く時間自体も長いことが分かっています。また、独自の番組を提供することで、最初はSpotifyが自分には合わないと思っていた人も今度は試してみようと関心を持つようになることも確認されています。

ラジオ業界のデータをもとに考えると、将来的にSpotifyの視聴内容の20%以上が音楽以外のコンテンツになることも十分に考えられます。つまり、より独自性のある番組を編成することによって、より速く成長する可能性があるだけでなく、さらには自分たちのオリジナリティーを活かすことでSpotifyを差別化できるいうことです。すべては世界ナンバーワンのオーディオプラットフォームになるという目標のための取り組みです。

私たちは、クリエイターにとって意味のあるチャンスを提供できるプラットフォームを作ろうとしています。それはユーザーのワクワクと愛着を生み出し、インターネットレベルでの収益化構造を加えることで、業界のさらなる大きな成長を見込んでいるSpotifyにとって、より堅牢なビジネスモデルを築きます。

このような理由から、Gimlet(ギムレット)とAnchor(アンカー)という2社のポッドキャスティング企業の戦略的買収を本日発表しました。

両社は、この業界の中でそれぞれ異なる役割を担っています。世界トップクラスのコンテンツクリエイターであるGimletは、ユニークで人気を博したポッドキャスト番組の制作で知られています。人気タイトルには、最近Amazonプライムがドラマ化して評論家の高い評価を得た『Homecoming』や、インターネットカルチャーを主題にしたヒット作『Reply All』などがあります。

一方Anchorは、オーディオ制作の既成概念を覆し、世界中の次世代ポッドキャスターの制作を可能にしました。その結果、第4四半期には同プラットフォーム上で150億時間分のコンテンツが誕生しました。

それぞれの分野でトップクラスの両社とともに、Spotifyは他とは差別化されたオリジナルなコンテンツをお届けします。GimletとAnchorの力を得て、私たちは世界中のポッドキャストクリエイターを支える有数のプラットフォーム、そして一流のポッドキャストプロデューサーの地位を狙います。

ポッドキャストでは、これまで音楽で実現してきたように、ユーザーがSpotifyに期待するようになったキュレーションとカスタマイズに注力して取り組みます。クリエイターに対しては、コンテンツの発見のしやすさ、データ、収益化の機会を提供します。

今回の買収は、私たちが世界トップのオーディオプラットフォームに成長するにあたり、有意義な加速を促します。Spotifyのブランド価値を高めるとともに、世界中のユーザーに最高のポッドキャストコンテンツの利用機会を提供し、ユーザーのリスニング体験の質を向上させるでしょう。

誤解のないように申し上げると、このような方針によってSpotifyにおける音楽の重要性が下がることはありません。Spotifyのコアビジネスは現在も非常に順調です。、そして、今後もオーディオ、特にオリジナルコンテンツ制作をより深く追求すると同時に、サブスクリプションや広告を通じたモデルの影響力を強化し、私たちのビジネス全体の規模を広げていきます。

それゆえに、今はこの先に見えているチャンスを捉えるために投資することが賢明だという考えに至りました。私たちはSpotifyが今後もグローバルなオーディオエコノミーの中核を担い続けることを目標にしています。

次の10年は、よりパーソナライズされた没入型のオーディオ体験の時代になると同時に、熾烈な競争の時代になるでしょう。このような未来を予見し、準備をしているのは私たちだけではないことはわかっています。

しかし、それでもなお、オーディオ業界における現在の地位を譲るつもりはありません。なぜなら、Spotifyほどの規模を持ち、世界中のオーディエンスを相手に78のマーケットで事業を展開する企業は、ほかにはないと考えているからです。

Spotifyのように、ユーザーがアーティストとクリエイターの両方とつながるという恩恵があり、二面的なマーケットプレイスを築いているオーディオ企業はほかにありません。オーディオ広告と、グローバル規模のサブスクリプションの両側面から収入モデルを展開している企業はほかにありません。

Spotifyには音楽業界の他社にはないエンジニアリング能力とオーディオに関する専門性があります。そして、GimletとAnchorが加わることによって、今やSpotifyは、ほかのどの企業よりも多くの番組を提供する世界有数のグローバルポッドキャストパブリッシャーになろうとしています。

このような成長を実現する手段には、この業界を倍の規模に拡大させる可能性が秘められています。そして、Spotifyほどオーディオという特定の一分野に的を絞っているグローバル企業はほかに存在しません。

もしも私たちが成功すれば、最終的には競合する音楽ストリーミングサービスのみならず、あらゆる形式のエンターテイメントや情報サービスなどを相手にした、ユーザーの可処分時間をめぐる競争に広く関わることになります。私たちはこのような状況を喜んで受け入れます。

なぜなら、平等に活動できる場での公正な競争こそが、最もクリエイティブな成果物とイノベーションを生み出し、リスナーとクリエイターの両方に最高の体験をもたらすことになるからです。

私たちの業界は目まぐるしい速さで変化していますが、Spotifyが進むべき道は明確です。私たちは、世界有数のオーディオプラットフォームになろうとしています。そしてその道のりの大切な第一歩を踏み出したのが今日という日なのです。

どうぞこれからもお聴き逃しなく。