How I Podcast:「拡散されたくない」はずが人気番組に。『奇奇怪怪明解事典』の2人が語る、ポッドキャストだから話せること
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How I Podcast:「拡散されたくない」はずが人気番組に。『奇奇怪怪明解事典』の2人が語る、ポッドキャストだから話せること

ヒップホップユニット「Dos Monos」のラッパー、TaiTanさんとロックバンド「MONO NO AWARE」のギター兼ボーカル、玉置周啓さんによるポッドキャスト『奇奇怪怪明解事典』

それぞれアーティストとして音楽活動をする2人が、漫画や詩歌、演劇、小説、歌詞で遭遇した言葉の驚異や、日常をうっすら支配する些細な怪奇現象について語る本番組は、その親しみやすさから多くのリスナーを惹きつけています。

2021年3月には、番組開始から1年も経たないうちに「JAPAN PODCAST AWARDS 2020」で「Spotify NEXTクリエイター賞」を受賞。6月からはSpotify独占配信番組にもなりました。

そんな番組のホストを務める2人に、動画でも写真でもない、「音声」で発信することの魅力を語っていただきました。

だれの目も気にせず話せる “聖域” を確保しておきたかった

▷番組の概要や内容について教えていただけますか?

TaiTan:『奇奇怪怪明解事典』という番組は、Dos Monosのラッパーである僕と、MONO NO AWAREで活動する音楽家、玉置くんの2人で配信しています。僕らの日常を支配している言葉や現象、だれも気にしていないような、だけど気にしてみると気になるような、そんなことを深掘りしている番組です。

TaiTanさん、玉置周啓さんがお届けするポッドキャスト番組『奇奇怪怪明解事典』

TaiTan:玉置くんと僕は、この番組を始める前からもともと友達だったんです。友達同士の2人がダラダラとしゃべっている、それがそのままコンテンツになっているんです。

僕自身、ラッパーとしてインタビューを受けるときは、「ラッパー」の人格で話すことが多いんですが、ポッドキャストではより生の、裸の自分でしゃべれるのがいいですね。

▷ポッドキャストを始めたきっかけは?

TaiTan:『奇奇怪怪明解事典』を始めたのは、2020年の初頭です。コロナ初期の当時は、嘆きや怒りなど、感情むき出しの言葉がまわりにあふれていました。そういうのを見ていて僕も精神的にまいってしまって……。Twitterのアプリを消したりもしました。

でも、そういう状況でも友達とのダベりの時間は必要だと思っていて。だれの目も気にしないでいい、雑談の場を “聖域” として確保しておきたかった、というのが一番にあります。

ただ、自分が考えていることを、テキストや動画で表現するのはなんだか気乗りがしなくて。もっと正直な、”ままならなさ” みたいなのも含めて、そのまま保存しておける場所がほしかった。それなら、ポッドキャストがいいんじゃないかと思いました。

ポッドキャストがいいのは、ラジオとかと違って尺の制限がないところですね。しっかり構成を考えなくても、そのヨレや雑味自体がコンテンツになるのが面白い。あとは、自分で発信するからこそ、編集権が完全に自分たちにあるのもいいなと思います。

それに、実は「拡散されたくない」という気持ちもありました。内容が本音ベースのことだから、届いてほしくないところにまでは届かないでほしい。ポッドキャストのように “開かれてはいるけど閉じたメディア” が、僕には一番合っていたんだろうなと。

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▷2人が共通して好きなエピソード、その思い入れについて教えてください。

TaiTan:直近だと「第61巻(後編)肉体改造と「知ってるマン」の罪」の回は人気でしたね。「それ、知ってる!」みたいに、妙な見栄やマウント意識が言葉の中で現れてしまうことってありますよね。あとは、『第50巻(後編)『言葉がなかったら』制作秘話とガンダーラをゆく耳の旅』も熱量高い反応が多かったです。

玉置:あの回はしゃべってて一番楽しかったよね、僕も好きです。お互いの興味が最後の最後まで続いた感じ。言葉はみんなが持っているもの、だから自分ゴトとしてお互いにしゃべれた気がしました。

TaiTan:言葉ってコミュニケーションツールとして有効な一方で、人を分断したりもするじゃないですか。「同じ言葉を使っている」と当人たちは思ってるのに、お互いが頭でイメージする具体像や生きてきた文脈が違うから、なぜかすれ違ったり。

この番組自体、それをだれかの責任ではなく、ある種の “怪奇現象” と捉えることがテーマなんですが、まさにその象徴的な回でした。

「知ってるマン」のように気にしなきゃ気にならないんだけど、気にし始めると「どうしてこの人はこんな発言をしたんだろう……」と気になってしまう。世の中ってそういう言葉であふれているし、そもそも人間のおかしみは基本的にそうした細部に宿るような気がします。

そういうものをピンセットで採集してきて面白がりつつ、社会学的な好奇心も刺激される番組であれたらいいなと思ってます。ただ、その際に、旧時代っぽいルサンチマン的なひねくれ根性を持って、対象を一方的に腐す、みたいなことはしないように常に意識してます。

▷SNSでバズることが正義だった時代もありましたが、なぜ拡散されたくないんでしょう?

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TaiTan:コロナ禍で、特に音楽業界では多くの人たちが直接的な影響を受けました。そうした情勢の中で、社会に対するシビアな反応とはまた違う、僕たちの雑談ベースの発言が、トーンポリシングや冷笑主義みたいな形で受け取られるのは嫌だなと。そういう誤解はできるだけ排除したかったので、自分がコントロールできる範囲にしか自分の発言が届かない場所を作りたかったんです。

それに、人間のどうしようもなさ、不謹慎さも含めた業の深さを、無理に隠さないほうが面白いんじゃないか、そのほうが健全なんじゃないかという気持ちが、僕の中にはあります。だけど、それは共感できない人にまで届いてしまうと、その一部だけが切り取られて炎上したり、不用意にだれかを傷つけてしまう。だから、文脈を理解する気のない相手には届かないようにしていたいんです。

企画から収録、編集、配信、宣伝まで…… 人気番組の制作現場

▷企画から収録、編集まで、すべて自分たちでやられていますか?

TaiTan:基本的には僕がテーマやエピソードを考えて、それを玉置くんに伝える、という流れです。外部のディレクターや作家さんは入れていません。台本もありません。

毎回収録が終わったら、「次はなにを話そうかな?」となんとなく考え始めます。テーマを決めて、5日くらい経つと話のポイントが見えてきて、それに、最近ふれたコンテンツ、例えば、観た映画や読んだ本とかで肉づけして、玉置くんに共有します。

▷玉置さんは、TaiTanさんから渡されたテーマにどう応えるんでしょう?

玉置:僕に拒否権はないので、だけどあんまり興味が湧かない話だったらしゃべらないときもある(笑)。

TaiTan:「興味がないときは黙ればいい」という、お互いの了解があるんです。「無理にでもこの場を成立させよう」みたいな力学が働かないのは、利害関係がお互いにまったくないからこそ。それもまた面白いんじゃないかなと思います。

▷普段の生活の中からテーマを探してくるということでしたが、インスピレーションはどこからきているのでしょうか?

TaiTan:ケースバイケースですね。このあとも収録するんですが、例えばこの前、ある格闘技の選手が結構衝撃的な負け方をしたんですね。でもそのあとの退場の仕方がすごくよかった。それが先週くらいの話です。

そして最近、今度は僕が登壇イベントに呼ばれて話をしたんですが、カッコつけてたくせにドンズべりしたんです。なにを言ってもウケなくて……(苦笑)。だけど、この2つのエピソードには少しつながるところがあって。「負け方にも人間の格って出るんだな」とか。まあそんなことを普段なんとなく考えていると、自然と話したいことの輪郭がはっきりしてきます。

玉置:こんなふうに、出来事やエピソードをつなげるのはTaiTanはうまいですね。「たしかにそれはそうだね」とリスナーが気づいたときに、この番組は面白くなるような気がします。

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▷収録の設備や環境はどのようにされているんですか?

TaiTan:収録環境はとてもシンプルです。(電子楽器・音響映像機器メーカーの)「ZOOM」さんがポッドキャスターのために開発した機材 「PodTrak P8」をお借りして、ライブとかで使う58マイクを2本立てて自宅で収録し、それをパソコンにつなげて、「GarageBand」で録音、編集しています。

▷どのように宣伝しているのでしょうか?

TaiTan:宣伝は必要最低限、と言ってもお互いのSNSで告知するくらい。それくらいでいいかなと思っています。

だけど、この番組がこれからいろいろと形を変えていくことには興味があって。アーカイブなしのトークイベントとか、書籍化とか、ポッドキャスト発の書店を作るとか、”ポッドキャスト” という枠を超えて、いろんなコンテンツを発信していけるようになったら面白いし、それが結果的に宣伝になればいいなとも。

▷配信には「Anchor」をお使いですね。お気に入りの機能を教えてください。

TaiTan:Anchorのいいところは、登録さえすれば簡単に自動で配信できることです。これからポッドキャストを始める人にはオススメしたいですね。

「どうやってポッドキャスト始めるか?」って意外と知られていないし、ハードルが高いとも思われている。でも、僕たちは2人で勝手に始めたわけで。それはAnchorのおかげでもあります。

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▷これからポッドキャストを始めたい人へのアドバイスはありますか?

TaiTan:ポッドキャストって “嘘がバレるメディア” ですよね。肩肘張るとあまり愛されないし、息切れする。自分が思っている愚痴や今好きなことを、話せる相手が他にいないからとりあえずここで話す、くらいのノリでいいんじゃないかな。

玉置:たしかに。そういう意味では “新しいSNS” の一種になってもおかしくないですよね。YouTubeみたいな動画ではなく、音声で近況報告しあうとか。

▷動画でも写真でもなく、声だけで発信することの魅力はどこにあるのでしょう?

玉置:動画や写真を「自分がどう見られているか?」って、第2の視点でチェックしながら発言するのがあまり好きじゃないんです。

だけど、声は口を開けば勝手に出てくる、だから加工のしようがない。正直な気持ちが声に勝手に出てきて、出てきたところで逆に自分の新しい感情に気づくこともあります。動画や写真だと綺麗にまとめがちだけど、声だと飾りようがないですよね。

▷ポッドキャストを通じて、今後の制作活動やキャリアについてどんな展望をお持ちですか?

玉置:僕の場合、ポッドキャストは “生活の一部” と化したので、バンドの歌詞など、すでに他の作品に影響しています。それに、自分のアウトプット先が複数あるのもいいことです。あとは、これを継続させるのが大切だなと思っています。

TaiTan:僕にとって、ラップをするのもポッドキャストをするのも、使用言語が違うくらいであまり変わらないことだと思っています。どちらも、普段考えていることをただただ表現しているので。ポッドキャストによる影響というよりも、元からあったものが、違う形で現れてきているんだなと思います。

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