青葉市子
クローズアップ

青葉市子が築いたグローバルなファンベース ストリーミング時代におけるリスナーとの深いつながり

​​ 青葉市子さんは、独自の音楽スタイルで国内外のリスナーを魅了する音楽家です。2014年、フランス・パリでの舞台音楽制作がきっかけで海外活動を開始し、その後台湾や香港、韓国などアジア各国でのライブを経て、ヨーロッパやアメリカでもツアーを成功させました。

 Spotifyの月間リスナー(2024年7月時点)は150万人に達する勢いで、その9割以上が海外リスナーという国際的な人気を誇ります。特にUSのリスナーが多く、35歳以下のリスナーが約9割を占める中でも、10~20代がメインのリスナー層。彼女の音楽は、言語の壁を越え、感情や風景と結びつくことで、世界中のリスナーに深い共感を呼んでいます。

 このインタビューでは、青葉さんの海外活動のきっかけやエピソード、ストリーミング時代におけるリスナーとの新しいつながりについて詳しくお話を伺いました。彼女の音楽がどのようにして国境を越え、グローバルなファンベースを築いていったのか、その背景に迫ります。

言語ではないところでつながる楽しさ

青葉市子


──青葉さんが、海外で活動を始めたのはいつ頃のことでしたか?

青葉:2014年に舞台音楽の制作のため、フランスのパリに行ったのが始まりだったと思います。その後何度かパリとロンドンを行き来するようになり、教会でチャリティライブをしたりしていました。

──同じ頃、台湾や香港でも公演を行われていましたね。

青葉:はい。南青山にあるライブハウスでお仕事されていた方が、台湾に姉妹店を当時オープンされレーベル運営などもなさっていたんですけど、そのタイミングで台湾だけでなく香港や韓国を回るツアーを組んでくださったり、現地のシンガーの方との対バンライブをブッキングしてくださったりして。それで少しずつ、海外でライブをする機会が増えていったという感じですね。海外に行きたいという思いがそこまで強くあったわけではなかったのですが、ご縁が重なって毎回新鮮な気持ちで取り組んでいました。そして何度か行っているうちに、言語ではないところでつながる楽しさを、どんどん覚えていったというか。歌詞は基本的に日本語で書いているので、その意味が現地の人たちに伝わらなかったとしても、これだけの人と同じ時間に同じ場所で気持ちを共有することができるのは、貴重なことだなと思うようになり、さらに積み重ねていきました。

──アジア各国を訪れた際のエピソードを教えてください。

青葉:2013年にタイで行われた『JAPANESE INVENTION』では、Japanese Invention curated by Corneliusとして、Cornelius、Cornelius、Buffalo Daughter、Salyu×Salyuとご一緒させていただいたのですが、漫画家のタムくん(ウィスット・ポンニミット)が遊びに来てくれたりして、みんなでわいわい楽しかったですね。会場はきらびやかでとても賑やかなのに、ちょっと奥へ行くと自然が多かったりするギャップも印象的でした。マレーシアでは、茶畑とイチゴの畑が広がっているような山奥でフェスが開催されていたのですが、現地の食生活や気候を直に感じられてとても面白かったです。シンガポールからマレーシアまでバスで入国したのも貴重な体験でした。

──Spotifyのようなストリーミングサービスで楽曲が聴かれるようになったことで、体感として変わったことや実感することはありますか。

青葉:やっぱり「探して聴かれる」ようになったことではないでしょうか。みんながスマートフォンを持つ時代になり、自分の好きな音楽を手元にコレクションできるというか、手に届きやすくなってからは、とても速い速度、近い距離で楽曲に触れていただけるなと感じています。届くべき人のところにちゃんと届いているなと。特にコロナ禍でそれはより強く感じましたね。当時、コンサートを開くのが難しくなったミュージシャンたちは、ライブ配信やSNSの投稿などを通じてみんなとより深くつながることができたと思います。

──確かにそうですね。

青葉:世界中の人々が一斉に等しく経験したものだからこそ、みんなの団結力も強まっていったのかなと思っていて。海外のリスナーも私の音楽をより求めてくださったし、こちらからも積極的に発信するようになったし、双方からぎゅっと合致できた部分がありました。一方で私はこの時期、海外ツアーを積極的に行っており、それも相まって配信での聴かれ方が広がっていったのかなと思っています。

──Spotifyでの再生数を調べてみると、青葉さんの場合は30代以下の海外リスナーがとても多く、中でも10代、20代がメインです。

青葉:不思議ですよね。2021年にヨーロッパツアーを行い、その翌年には初のUSツアーがあったんですけど、その時は「初めまして」ということもあって、終演後にお客さんと触れ合うためフロアに出て行ったんです。サイン会を開いたり、みんなとお話ししたりする時間を作って、その時に「なんで私のこと知ってくれたの?」と集まってくれたミュージックキッズたちに聞いたら、「クラスで友達が作ったプレイリストで知った」とか「学校で、お昼の放送の時に流れていて好きになった」とか、そういう人が多かったんですよね。ライブを「ALL AGES(全年齢向け / ファミリー向け)」にしたのもあって、クラスメイトと誘い合って観にきてくれたり、親同伴で来てくれたり、ついでにおじいちゃんやおばあちゃんも一緒だったり、家族でどっさり来てくれたのは本当に嬉しかったし刺激的でしたね。

“風景”とともに広がっていった楽曲たち

青葉市子

──曲ごとに見ていくと、最も聴かれているのは2021年リリースの「Asleep Among Endives(アンディーヴと眠って)」で、再生数が急上昇したのが2023年11月頃でした。

青葉:おそらくTikTokで拡散されたのもその時期なんですよね。マネージャーチームから「使われてるよ」と聞いて知りました。例えばたい焼き屋さんやおにぎり屋さんのような、日本の古くからある商店街の、のどかな風景と組み合わせて動画を作っている人が多くて面白かったですね。「みんな、こういう風景に合うと思いながら聞いているんだ」という気づきがあって。

 かと思えば、去年の春に自分の歌詞をまとめた『ICHIKO AOBA LYRIC BOOK』という本を出版して、それは英訳も併記してあるんですけど、アメリカやヨーロッパのツアーでは、それをライブ会場でカバンから出して、演奏中にまるで教科書みたいに読みながら歌を聴いてくれているのもすごく嬉しくて。ステージからその様子が見えて、とても感動しました。

──再生数が2位の「Dawn in the Adan」、3位の「Parfum d’étoiles」はいずれも2020年にリリースされた、通算7枚目のアルバム『Windswept Adan(アダンの風)』収録曲です。

青葉:『アダンの風』を作っていた時は、コロナ禍の真っただ中というのもありましたし、自分が本当に今生きているのか死んでいるのか、死にゆくのかその途中なのかという、曖昧でちょっと体が浮いているような感じで生きていました。黄泉の国へ渡る橋の上で書いたような楽曲たちです。「Dawn in the Adan」など歌詞の内容は割とヘビーなんですけど、メロディがキャッチーなので、言語がわからない人でもサウンドそのものにアクセスしやすかったのかもしれないですね。

──その前のアルバム『qp』に収録された、「月の丘」は再生回数6位です。今年3月くらいからTikTokでも頻繁に使用されている楽曲です。全体的に「お気に入り」率も高く、特に「ラジオ」機能で知ってお気に入りに入れてから繰り返し聴くというパターンが見られました。そして、7位は「いきのこり●ぼくら」(2013年)です。

青葉:早回しにしたバージョンがTikTokでものすごく流行っていた時期があったらしく。それを見た人たちが「この曲はなんだ?」「どの曲がオリジナルだろう」といった感じで楽曲にたどり着いてくださり、そのまま定着して聴いてくださっているようです。

──例えば海外でライブをするときなど、ストリーミングにおける海外での再生数などをセットリストに反映させることはありますか?

青葉:海外のマネージャーはそのような提案をしてくれますが、私はあんまり言うことを聞いていないですね(笑)。その時に自分がやりたい曲を演奏しています。とはいえ、「自分たちが本当に聴いてもらいたいもの」と「みんなが選んでくれたもの」が重なっている良い時期だと思っています。

──ストリーミングのデータを元に海外公演の地域を決めることは?

青葉:それもマネージャーをはじめ、チームが考えてくれています。まず主軸となる都市を決め、その間に「景色が綺麗ならここも行こう」とか、「この国でよく聴かれているし行ってみようか」とか。そうやってバランスを取りつつも、全くデータがないところにも夢を持って、新鮮で新たな試みに取り組むようにしていますね。予定調和ではないことの方が、クリエイティブな発想につながるので、そこはこれからもこだわっていきたいです。