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Lampの音楽はなぜ海外で支持されたのか ストリーミングが広げた新たなリスナーとの出会い

 2000年に結成された3人組バンド、Lamp。2003年にインディーレーベルMotel Bleuより1stアルバム『そよ風アパートメント201』をリリースし、ボサノバを基軸としながらフォークやサイケ、AORなどの要素を散りばめたそのサウンドがコアな音楽ファンの間で密かに話題になりました。

 大掛かりなプロモーションやツアーなどは積極的に行わず、ひたすらマイペースに作品をリリースし続けてきた彼らでしたが、ストリーミングサービスにて楽曲配信を開始した2018年頃から主に海外で着実に再生回数を伸ばし、現在Spotifyの月間リスナー数が200万人を超えるほどの存在となりました。

 前作『彼女の時計』からおよそ5年ぶりの新作『一夜のペーソス』(2023年10月リリース)も順調にリスナー数を増やし続けているLamp。なぜ彼らの作品が海外の若い世代に受け入れられてきたのでしょうか。海外リスナーへのアプローチはどのような経緯で始まったのか、メンバーの永井祐介さん(Vo)、榊原香保里さん(Vo)、染谷大陽さん(Gt)に話を聞きました。

楽曲配信「以前/ 以後」で変化した海外リスナーからの反響

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──Lampは現在、Spotifyの月間リスナー数が200万人を超えています。この状況について率直にどう思われますか?

染谷: 僕たちの音楽を聴いてくれている人が増えたことは嬉しいですし、海外の方々がこんなに聴いてくれていることに驚いています。ただ、こういった数字は音楽の本質的な部分とはほとんど関係ないので、気にしないようにしたいなとも思っています。

榊原:実をいうと、私自身はそういった数字は興味がなくて。周りに言われても「ふうん」という感じでずっと過ごしてきました。今はこうやって取材を受けることもあるので、状況は把握しているつもりですが、それでもあまり意識したことはないですね。これまでの活動の中で、取り立てて注目を集めたこともあまりなかったですし。ただ、こうやっていろんな人たちに聴いてもらえたことについては、それなりにやってきたという自負もあるので、「不思議だけど、不思議じゃない」みたいな(笑)。そんな感覚が続いています。

永井:これまでずっと、「売れる/ 売れない」というところで活動してこなかったというか。バンドを始めたばかりの頃は、音楽だけで食べていくことを想像していたんです。でもインディーズで1枚、2枚と作品を発表してみて、現実的に「あぁ、これは無理だな(笑)」と思ったんですよね。そこからは、音楽を仕事にするということをほぼ諦めていたし、商業的なことをあまり期待もしていなかったんです。なので、自分たちがこういう状況になったのはきっと時代の流れにうまく乗れた運もあっただろうし、商業的な成功とは無縁の世界で純粋に自分たちが良いと思える音楽を本気で作りつづけてきたからなのかなと。こうやって見つけてもらい、聴いてもらっていることに関しては「運が良かった」という気持ちと、「まわりを気にせず本気で作ってきて良かったな」という気持ちの両方がありますね。

──海外リスナーへのアプローチが始まったのは、2016年~2018年にアジアライブを行ったことがきっかけだったそうですね。

染谷:2003年に6曲入りの1stアルバム『そよ風アパートメント201』を出したのですが、その直後くらいから韓国のレーベルから「音源をリリースしたい」「ライブをやってほしい」というコンタクトがありました。00年代後半には、Myspaceという音楽を軸としたSNSサービスが流行っていて、それを通じてアメリカ等海外のレーベルから連絡をもらうこともあったんです。僕らは基本的にレコーディングなど創作活動が主体で、ライブに関しては「新規ファンを獲得するため」というよりはむしろ普段から僕らの音源を聴いてくれている人たちに対する「お礼」みたいな気持ちでずっとやってきました。なので、僕らから海外リスナーに対して「アプローチ」をしたわけではなくて。オファーがあったので「楽しそうだし、じゃあ行こうか」という感じでした。

──Lampの楽曲が配信される「以前/ 以後」で、海外リスナーからの反響はどう変化しましたか?

染谷:先ほどのMyspace以降で言うと、「A都市の秋」という楽曲がSoundcloudのリンクが貼られる形でRedditというアメリカの掲示板サイトで広まったというのは認識しています。それがおそらく2015年くらいだったと思います。そういった感じで配信前から徐々に海外に広まっていった感覚はありますが、やはりストリーミングサービスで配信を開始し、SpotifyがYouTubeやInstagram等他のプラットフォームと連動するような形になったのか、僕らに目を向けてくれる海外の方が一気に増えました。僕らにとってそれが大きな変化だったのは間違いありません。

自分たちの楽曲は新しい生活様式との相性が良かったのかもしれない

──2021年には、ユーザーのTikTok投稿に使用された「ゆめうつつ」という楽曲がバズを生み出します。現在Spotifyでもこの曲の再生数が、Lampのレパートリーの中で最も多く、同曲を収録したアルバム『ランプ幻想』(2008年)の楽曲も多く聴かれています。

染谷:この曲は、たとえばドノヴァンの『The Hurdy Gurdy Man』収録の「Peregrine」や「Teas」、ビートルズの「Blue Jay Way」、スタックリッジ「32 West Mall」とかマイケル・ゲイトリー「The Way Your Love Is Going」なんかを意識しながら作りました。自分たちとしては良くできた曲だしめちゃくちゃ気に入っているんですけど、まさかこんなに多くの人に気に入ってもらえるとは思ってもいなくて(笑)。TikTokで流行る音楽はビートが強かったりキャッチーなフレーズがあったりするものが多いと思うのですが、コロナ禍で1人で家にいる時に音楽を聴く人が増え、そういう状況で聴いてもしっくり来るものを探すようになったのかなと勝手に予想してます。自分たちの楽曲がコロナ禍の新しい生活様式と相性が良かったのかもしれない。

──「ゆめうつつ」はアメリカ・カナダ・イギリスの順に再生回数が多いそうです。

染谷:どこの国が特別ということはないですが、強いて言うなら、僕自身、10代の頃から特に60年代のアメリカやイギリスの音楽に対しての憧れがありました。バンド結成の頃から海外の人にいずれは聴かれるだろうということを常に意識しながら楽曲を制作していたし、世代は違っても自分たちの音楽をこういう形で届けることができたのは嬉しいですね。

──昨年は『恋人へ』のアルバムジャケットを真似したTikTok投稿が、ファンアートミーム化する出来事がありました。

榊原:あれもすごく不思議な現象でしたね(笑)。

染谷:そもそもあの写真は、カメラマンとメンバーと4人で海へ行き、ジャケットのための撮影をしているときに偶然撮れたものなんです。しかもカメラマンじゃなくて僕が(笑)。その頃持っていた安いデジタルカメラのファインダーを覗き込んだときに「あ、この感じ!」と思う瞬間があって、それで撮った写真がとても気に入ったので有無を言わさずジャケットに使用しました。当時、つげ義春の「海辺の叙景」の雰囲気、陽気な海ではなく少し淋しさを感じる海の景色に憧れを抱いてました。そういう雰囲気になったかなと。撮った瞬間に僕が感じた「良さ」が海外の人の感覚に響き、真似されるようになったのだとしたら嬉しいですね。

これからも純粋に音楽のことだけを考えて制作していく

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──Lampが断続的な活動で23年も続けてこられたのはなぜだと思いますか?

染谷:僕から見ると2人はあまり前に出たがらないタイプだし、自分から「こういうことがやりたい」とも言ってこないんですよね。その上、僕が考えた企画とかあらゆるオファーをまあほぼ嫌がるので(笑)、とにかく「無理強いをしない」ということは気をつけています。一方、僕は結構思い込んだら通したいタイプなので「どうしてもこれはやる!」と思ったことは2人を引っ張ってでも実現しちゃいます。それでなんとかアルバムを完成まで持っていったりツアーをやったりしているんです。2人はそういうところは僕を理解して歩調を合わせてくれてますね(笑)。

榊原:大陽のおかげでLampは続いていると言ってもいいかもしれない。まあ、バランスがいいんだと思いますね。彼のようなアグレッシブなタイプと、なんとなくついていく永井と私、みたいな。

──いい塩梅で引っ張ってくれているというか。

榊原:そうですね。そこは結構、考えてくれているんだと思います。

──2000年代の作品がストリーミングサービスなどを通じて今の若い世界中のリスナーに聴かれるようになり、それで新作を出すとなったときに音楽の作り方、届け方が変わったところはありますか?

染谷:バンドをやり始めた時から「売れた/売れなかった」で音楽を作るスタンスや信念みたいな部分は変わったらダメだなと思っていました。もちろんリスナーが増えることも、再生数が上がることも良いことです。ただ、音楽を作るときにそういうことは全く考えません。結果的にたくさん聴かれている僕らの楽曲も、ヒットさせるとか再生数だとかを一切気にせず純粋に音楽のことだけを考えて作ったわけですし、今回も同じように音楽と真摯に向き合いながら作りました。届け方に関してもそうですね。特にプロモーション活動などやってこなくてもこれだけ広まった経験があったので、今回も別にやらなくていいと思ったんです。新作に関しても今後少しずつでも広まっていけばそれで良いと思っています。