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快適なパーソナライズ機能のためのSpotifyにおけるデザイン活用方法

Spotifyの各チームは日々AIと機械学習を活用し、パーソナライズ機能へ大規模に適用し、Spotifyユーザーが慣れ親しんでいる機能やプレイリスト、体験の向上につなげています。日々最新のテクノロジーと向き合っていると、複雑で新しい進歩やチャンスに圧倒されてしまいがちです。私たちの先進的なチームは、ユーザーの体験を優先しながら、どのようにしてこの技術的な仕事に取り組んでいるのでしょうか?

これは、Spotifyのパーソナライゼーションのプロダクトデザイン責任者であるEmily Gallowayが常に心に抱いている疑問です。彼女のチームの役割は、リスナーとクリエイターをつなぐコンテンツ体験をデザインすることです。そのためには、ユーザーにとって魅力的で、シンプルで、楽しい方法で活用できるよう、パーソナライゼーションに関連する機械学習機能を理解する必要があります。

「デザインは、物の見え方を連想させがちです。しかし、コンテンツ体験をデザインする場合、ピクセルとデシベルの両方を考慮しなければなりません。どのように機能し、どのように感じさせるかが重要なのです」と、Emilyは説明します。「どのように製品を作るかについて、人間的な方法で思慮深く、意図的であることが重要です。私はデザイン思考者であり、人間中心の思考者です。人々は、楽しんだり、リラックスしたり、元気づけられたり、情報収集したりするために、Spotifyを訪れます。彼らはコンテンツを求めてやってくるのです。そして私のチームは、パーソナライズされたコンテンツに対するユーザーが求めるものについて考えるために存在しています。何を、いつ、なぜレコメンドするのか?といったことです」

パーソナライゼーションデザインチームは、ホーム画面や検索のようなコアとなる画面や、Discover Weekly、Blend、DJのような多くの人に愛されている機能の制作をサポートしています。そこで、これらの各機能の背景にあるデザインについてどのように考えるべきかをよりよく理解するために、Emilyにいくつか質問しました。

常にリスナーを意識するうえで、デザイン思考はどのように役立つのか?

会社に勤めていると内部のことを理解しすぎて、エンドユーザーとは言えません。デザインは、ユーザー視点に立って考えることで問題を解決に導きます。ユーザーに共感を抱くのは私たちの仕事です。彼らの立場から、日常においてどのような体験をしているのか考える必要があります。心に留めておくべきことは、Spotifyを使っているとき、スマートフォンはポケットの中にあることが多く、画面を見るのはたった一瞬であるということです。

デザインなしでは、「技術的にどうやるか?」という質問になります。Spotifyで働く私たちは、特定のやり方で技術的にプログラミングする方法や理由を理解していますが、ユーザーはそれを理解しておらず、理解する必要もありません。彼らに必要なのは、Spotifyをポジティブに体験し、そこから何かを得ることです。私たちはユーザー価値を創造する責任があり、人間であるエンドユーザーを第一に考えています。

この考えなしでは、Spotifyは複雑すぎるものになるでしょう。機能的な観点において、分かりにくく使いにくいものになります。よいデザインとはシンプルで、表には見えないものであるべきです。

一方で、デザインとは中毒性のあるものでもあり、喜びを加えてくれるものです。実際につながりや意味を生み出すDJやJamは、そういった部分が気に入っています。

デザインはパーソナライゼーションとどう関連するのか?

パーソナライゼーションは私たちの仕事の中心にあり、その中でデザインは重要な役割を果たします。

歴史的に、Spotifyのパーソナライゼーションの取り組みは、プレイリストや、ホームや検索などの画面で行われてきましたが、時が経つにつれ新しい技術を活用し、より多くのパーソナライズの機会を提供してきました。これは、アルゴリズムにより生成されたプレイリストとして初めて成功をおさめたDiscover Weeklyを生み出した、Hack Weekプロジェクトが起点となっています。そして、さらなるソーシャルリスニング体験のためにデザインされたBlendにつながり、最近ではAIの力とエディトリアルの専門性を活用し、アーティストのストーリーを伝え、曲の文脈をより深く理解できる新しい体験であるDJへと続いています。DJは、これまでにない方法でパーソナライゼーションを可能にするAI音声を活用しており、Spotifyのパーソナライゼーションを体験する新しい手段となっています。

このようなパーソナライズ体験をデザインするとき、私たちはコンテンツを第一に考えねばなりません。人々はコンテンツを求めてSpotifyを利用するからです。最終的にデザインはシンプルで人間味を感じさせ、ユーザーが好む体験を生み出します。もしレコメンドが数学の問題だとすれば、共感はデザインの問題です。

しかし同時に「技術的な共感」を持っている必要もあります。それは、技術そのものへの共感です。プロダクトデザイナーとコンテンツデザイナーが混在する私のチームは、プログラミングへの提案のために、技術がどう機能するのかを理解しなければなりません。

パーソナライゼーションのデザイナーは、機械学習や生成AI、アルゴリズムといった複雑な技術に取り組む方法を理解する必要があります。デザイナーは、リアルタイムでも時間を経てでも、より精緻なレコメンドを可能にするシグナルを考慮する必要があるのです。レコメンドが違ったり、ユーザーの気分が違ったりすれば、フィードバックと管理のメカニズムをデザインすることが必要です。AI DJの開発時にはそれがとても役立ちました。

DJの誕生秘話を教えてください

私たちは常にリスナーとクリエイターの間に、より意味のあるつながりを新しく魅力的な方法で作り出そうとしています。そして、この価値を提供するためにテクノロジーを活用しています。DJは、私たちがテクノロジーによってより深く、有意義なつながりを促進していることを示すふさわしい例です。

生成AIが誕生する前は、「信頼できる友人DJ」を実現するためには、何千人ものライターや声優、プロデューサーが必要で、その実現は、技術的にも手段的にも、経済的にも不可能でした。しかし今、新たな技術によって、そのクオリティが格段に高まりました。DJの声を担当するXavier “X” Jerniganのその声とパーソナリティは、何億人もの人々により有意義なつながりを生み出すという私たちのミッションを実現しています。生成AIは、かつて不可能だったことを、魔法のように感じさせてくれました。

DJに命を吹き込むために、親しみのある音楽と馴染みのない音楽のどちらも一緒に楽しめるリスナー体験を意識して、いくつかの核となる体験的な質問について考えました。「 リスニングに文脈を与えるとはどういうことか?」「AIを人間的に視覚化するにはどうすればいいか?」といった質問です。このことは、DJが遊び心のある方法で自己紹介をすることからもわかるでしょう。他のAIのように、ただタイマーをセットしたり、照明をつけたりするようなAIでないということです。

また、声以上のものである「性格」についても、どのようにデザインするかについて多くのことを考えました。

最終的には、信頼できる音楽ガイドのようであることと同時に、親しみやすい性格にしたいと考えました。私たちは人間の遊び心を体現するブランドであり、Sonanticを買収し、よりリアルで親しみやすい声を作るという大きな決断をしました。そして、Xavierが私たちの最初の音声モデルをトレーニングすることになったのです。彼の経歴と専門性からして、彼は完璧な選択でした。

生成AIのような新しいテクノロジーによって、あなたはチームとその仕事についてどのような新しい考え方を持っていますか?

私は、デザインと生成AIの交わりついて違った考え方をするよう、私たちのチームに課しています。私たちは、私たちの第一原理こそが真実であり、それほど異なるデザインをする必要はないという結論に戻り続けています。例えば、私たちは依然としてコンテンツファーストのアプローチをとっており、明確さと信頼を追求し続けています。技術の進歩はかつてないほど加速しており、デザインの役割はこれまで以上に重要になっています。

生成AIにはより複雑な要素が多くあるため、人間のニーズをより念頭に置かなければならないということです。結局のところ、もしユーザーが製品に興味がなかったり、使いたくなかったりしたら、私たちは何のためにそれを作ったのでしょうか?

新たなテクノロジーは、異なる考え方や異なる角度から見ることを促します。世界は共に理解しようと試みています。Spotifyでは、テクノロジーを使うためにテクノロジーを使っているのではありません。喜びと価値を提供し、その過程で発見とつながりを促進するというゴールを達成するためにこそ、テクノロジーを使っているのです。