Spotifyは12月5日、Spotify O-EASTにて『Spotify Music Sessions』を開催。当日はレーベルやマネジメントなど音楽業界関係者約150名を招待し、Spotifyの経営陣によるプレゼンテーションやスペシャルゲストを招いた対談などを展開しました。
■トニー・エリソンが振り返る、Spotifyの成長と音楽業界の動向
「Session1:2024年マーケット最新動向&ビジネスアップデート」に登壇したのは、スポティファイジャパン株式会社 代表取締役 トニー・エリソン。前年の「Seminar」というネーミングから「Sessions」に変更した理由について「音楽色が出る、参加性のある表現を選びました」と説明し、まずは前回の復習からスタート。2024年のセッションでは前回のテーマを引き継ぎながら、新たなテーマを3つ掲げました。
1.海外・国内市場ともにますます成長
2.ストリーミングデータを活用し、ファンを理解しよう
3.サステナブルな形でストリーミングを拡大しよう
1番目については「少し鈍化していると思われるサブスク市場ですが、まだまだ伸びる余地があります。プラットフォームや環境の進化によって、さらなるチャンスが見えてくるでしょう」、2番目については「ファンを理解することはヒット作りの起点です」、3番目については「配信がビジネスの軸となれば、さまざまな新しいチャンスが生まれます。市場全体が栄える、不自然な刺激に頼らない業界全体を意識した成長を目指しましょう」との言葉を添えて、ストリーミングサービスを軸として音楽業界の未来へ期待を寄せました。
ここからは1年間の振り返りへ。Spotifyの成長とともに音楽シーンがどのように進化・変化したのかを説明しました。
Spotifyは世界の月間利用者数6億4千万人、有料会員数2億5千万人でいずれも世界トップに。トニーはこの結果を受けて「どんどん広がるアーティスト/レーベルの巨大マーケットとしてお考えください。Spotify Japanはその巨大マーケットの中でみなさまの音楽とファンをつなぐお手伝いをします」と宣言しました。
日本の音楽の“世界輸出”の状況については「国内楽曲の海外聴取は2022年から2023年にかけて30%上昇しました。Spotifyの利用者増加率を超えています」と語り、2023年以降の総再生回数1億回超えヒット曲が100曲以上という結果についても「国内楽曲が海外で聴かれています。リアリティがあります」と強調。また、アニメタイアップや知名度の高いアーティストだけではなく、多様な楽曲が海外でも聴かれている現状については「ダイバーシティ・モーメント」と評しました。
そして、業界の変化や進化が進む中、トニーが挙げたのが「ファンを理解する」重要性。細分化したマーケットを知る手助けとなる機能「Spotify for Artists」の活用や、ライブチケットやグッズ販売の連携を推進しました。
最後には、音楽産業全体の健全な成長についても呼びかけ、「Session1」を終えました。
■芦澤紀子による「2024年Spotify年間ランキング」解説
「Session2:Spotifyまとめ2024 各種ランキング&インサイト」を担当したのは、スポティファイジャパン株式会社 音楽部門企画推進統括 芦澤紀子。当日0時に発表された「 2024年Spotify年間ランキング」について解説しました。
「国内で最も再生された楽曲」1位のCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は、国内楽曲として史上最速で1億、2億、3億回再生を達成したほか、125日にわたりSpotify Japanのデイリーチャートで連続1位を獲得。月間リスナーは国内アーティストとしては藤井 風、YOASOBIに続き、1000万人に迫る勢いを見せているといいます。続けて、2位の「ライラック」を含め4曲をTOP10に送り込んだMrs. GREEN APPLEが、「国内で最も再生されたアーティスト」にて2年連続1位に輝いたことを発表しました。
また芦澤は、Spotifyが日本で年間ランキングの発表を開始した2017年以降、初めての記録を作ったことにも言及。「『国内で最も再生されたアーティストランキング』には必ず海外アーティストが含まれていました。サービス開始直後の2017年は、エド・シーランとザ・チェインスモーカーズが上位にランクイン。2018年以降は三度の1位獲得を含め、5年連続でBTSの黄金時代が築かれていました。TWICEも2018年から2022年まで四度のTOP10入りを果たしています。そして、昨年もBTSが6位にエントリーしていましたが、今年Spotify Japan史上初めてTOP10を国内アーティストが独占するという結果になりました」と報告しました。
「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」1位のCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」については、リリース直後からまず海外で先に火がついたことに言及し、「ある地域でバズが起きて周辺地域に拡散していくことが多いこれまでの海外ヒットパターンとは異なり、アメリカや中南米、スペイン語圏を中心とするヨーロッパなどで同時多発的にバイラルヒットが起こり、世界的なヒットにつながった」と、ユニークなポイントを紹介。会場ではCreepy Nutsからのコメント動画の上映も行われました。
また前年ランクインが一時減少したアニメ関連曲が今年は6曲まで増加した背景については「アニメに焦点を当てた海外戦略を強化し、世界中のリスナーに多様なアニメコンテンツをお届けすることに注力してきた年」だったと振り返ります。さらに「トップ10内のアニメ関連楽曲6曲のうちの半分が『呪術廻戦』の新旧テーマ曲。人気アニメ作品の求心力の強さが現れた年でもありました」と付け加えました。
「海外で最も再生された国内アーティスト」1位を獲得したYOASOBIは4年連続の首位。「夜に駆ける」は総再生数6億3200万回を突破し、国内楽曲最高記録を更新中。1億回再生突破の楽曲も14曲と国内アーティストの中で最多数を誇ります。芦澤は「『アイドル』の国内外でのロングヒット、『コーチェラ・フェスティバル』 出演に加えてアメリカ単独公演を複数回成功するなど話題の絶えない1年でした」とYOASOBIの躍進にもふれました。
そして最後に「国内/海外で最も再生された日本の公式プレイリスト」を紹介。前年に続き「Tokyo Super Hits! 」「令和ポップス」「Hot Hits Japan: 洋楽&邦楽ヒッツ」がTOP3を占める結果に。Spotifyで1億再生を突破した楽曲のみを集めたプレイリスト「100 MILLION+: 1 億超えヒット」は初のランクインを果たしました。海外ではアニメ系のプレイリストが人気の中、2023年にローンチされた「Gacha Pop」が3位に。芦澤は「多彩な日本のポップカルチャーを海外に紹介するために作られたプレイリストですが、アニメ関連曲以外にもボカロや歌い手、VTuber、そしてSNSを起点としたバイラルヒット、ゲームから派生する人気楽曲などこれまでのJ-POPの枠には収まりきらない多彩な楽曲を紹介するプレイリストとして海外で人気を集めています」と、新たな展開への手応えを見せました。
■SKY-HI×磯﨑誠二氏が考える「ストリーミングシフト」と「持続可能な音楽業界」
「Session3:ストリーミング時代における日本の音楽業界の現在と未来」には、ゲストスピーカーとしてSKY-HI(日高光啓/株式会社BMSG 代表取締役CEO)、磯﨑誠二氏(株式会社阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部 研究・開発部 上席部長)、音楽ジャーナリストの柴那典氏が登壇。アーティストであり芸能事務所代表を務めるSKY-HI、複合チャート「Billboard JAPAN Hot 100」を運営する磯﨑氏、それぞれの視点から主に「ストリーミングシフト」「持続可能な音楽業界」についての議論が行われました。
SKY-HIは、2024年2月にCD販売を主体としたビジネスモデルからの脱却を掲げた「BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言」を発表したことなどにふれ、所属アーティスト・BE:FIRSTが配信リリースのみの楽曲「Boom Boom Back」でチャート1位を獲得し、その年の『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たしたという事例を紹介。さらにBMSGでは、これまでCDに付属していた特典をグッズとして販売するという試みを推進しており、環境負荷の軽減や新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいることなどが語られました。
一方、磯﨑氏からも「推し活」に伴うCDの複数買いや再生回数キャンペーンなどの施策が、チャートアクションに影響を与えているという指摘も。磯﨑氏は、SKY-HI同様、健全な競争を促すためには過剰なマーケティング手法を見直すことが必要であると語り、純粋な音楽の評価に基づくチャートの創出についても呼びかけました。
さらに、「ストリーミングシフト」「持続可能な音楽業界」を考えるうえでのグローバル市場への進出の重要性や、より多様なアーティストや作品の紹介を活性化させるBillboard JAPAN「急上昇チャート」の導入にも言及するなど、幅広いトークが繰り広げられました。
2024年のトレンドの振り返りとともに、よりよい音楽業界の未来について考える機会となった『Spotify Music Sessions』。Spotify Japanはこれからも、日本のアーティストたちの良きパートナーとして国内市場を盛り上げ、海外進出を支援してまいります。