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How I Podcast:人気ポッドキャスト『Off Topic』の2人に聞く、音声メディアの魅力と番組制作の裏側

「スタートアップやテクノロジーが大好き」という2人が始めたポッドキャスト番組『Off Topic(オフトピック)』

米国のビジネスやスタートアップ業界の情報を独特の視点で深掘りしながら伝える番組で、その新鮮で的確な情報や分析は、少し緩めの楽しいトークと相まって、テック業界のみならず幅広い分野のリスナーを惹きつけています。

2021年3月には「JAPAN PODCAST AWARDS 2020」で「Spotify NEXTクリエイター賞」を受賞。6月からはSpotifyのオリジナル番組として『bytes(バイツ)』の配信も開始しています。

ホストを務める宮武徹郎さんと草野美木さんに、ポッドキャスターとしてのこれまでの体験や番組配信の工夫を共有してもらいました。

深堀りの『Off Topic』、速報性の『bytes』

▷2つの番組を配信されていますが、それぞれの番組についてご紹介ください。

宮武徹郎さん、草野美木さんがお届けするポッドキャスト番組『Off Topic』

草野:『Off Topic』では、アメリカのスタートアップビジネスを深掘りしています。『bytes』のほうは最新テックニュースをギュッと5分でお伝えする番組です。

宮武:『Off Topic』では、「今なぜアメリカでこういうものがトレンドなのか」をテクノロジーの視点だけではなくて、スタートアップカルチャーとか、Z世代、アメリカの文化といった背景も含めて説明しています。

だけど、『Off Topic』ではひとつのエピソードにつき、ひとつのテーマしか深堀りしてこなかったので、いろんな情報がアメリカで飛び交う中、それをもっと多く、できるだけ早くみなさんに届けたいということで、『bytes』の配信も始めました。今まさにシリコンバレーで話題になっていることはなにか、をお伝えしています。

2021年6月に開始したSpotifyオリジナル番組『bytes』

▷『Off Topic』のオススメのエピソードを教えてください。

草野:例えば、「#57 覚醒したジャック・ドーシー」で、Twitter社の技術について私たちの予想を含めて話した回ですね。最新情報だけじゃなくて、「これからこういうことが起きるんじゃないか?」っていう。

宮武:僕もそのエピソードはよかったなと思います。ほかには、2020年5月ごろの「#36 次のソーシャルメディアがそろそろ生まれる?~Clubhouse、SNSの疲れ、Z世代の今~」なんかも。「Clubhouse」が当時アメリカで流行り始めた時期だったので、それをいち早くキャッチできたところがよかったなと。

米テック業界でポッドキャストは必須 「僕らも?」

▷ポッドキャストを始めたきっかけは?

草野:前職はベンチャーキャピタル(VC)で働いていて、宮武さんが同じ投資部門の先輩で。そこでよくアメリカのテックニュースについて話していました。

宮武:それにお互い、音声市場にかなり興味を持っていました。草野さんはもともと高校時代からメディア運営をしていたし、僕は海外の情報を集めたりしていたので、当時音声市場がアメリカで伸びてきた中で、「僕らもポッドキャストを試してみないか?」ということに。

草野:2018年当時、「Anchor」のアプリがアップデートされて、すごく使いやすそうだったのもきっかけのひとつですね。それとアメリカのVCの人とか、テックニュース系のメディアの間ではポッドキャストが「マスト」だった中で、日本ではまだあまりやっている人がいなかった。それで、ちょっとやってみたいな、というのもありました。

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▷Spotifyオリジナル番組の『bytes』のほうはどのように始まったのでしょうか?

宮武:日本のポッドキャストの中で、アメリカのテック系の番組が少なかったというのと、僕らの「深堀り系」だけでは少し物足りない部分もあるのかなと感じていました。そんなときにちょうど、Spotifyの方と話す機会があったのがきっかけですね。

草野:私たちが「こういう番組をやりたい」という話を担当者の方にしたら、すごく前向きにやりたいようにさせてくれて。企画へのフィードバックもすごく速いし、ポッドキャスターにフレンドリーなプラットフォームだな、とあらためて感じました。

宮武:SpotifyはAnchorやGimlet Mediaを買収したり、番組の独占配信をやったりとか…… ポッドキャストへの投資では、おそらくほかのプラットフォームよりかなり積極的だと思います。僕らとしても安心感があるというか、バックアップしてくれるかなと思いますね。

草野:Spotifyの方とはSlackで話し合うんですけど、絵文字の多さにも驚きました(笑)。

宮武:そうそう、しかも「カスタム絵文字」が大量にあって。それもまたSpotifyの文化を表しているようで面白かったです。グローバルな文化だなと感じましたね。

文字とは違う、声がもたらすリスナーとの「親近感」

▷『Off Topic』は今、どんな人に聴かれているんでしょうか?

草野:男女比でいうと半々ぐらい。男性のほうが少し多いかな。テック系起業家やスタートアップで働かれている方など、ビジネスに興味のある方が一番多いかな、と思うんですけど。

宮武:そうですね。あとは海外で活躍されている日本人の起業家や経営者。そういう方々からも感想の声をもらえるのはとてもありがたいですね。

▷草野さんは昔からブログでご活躍されていましたが、他のメディアと比べて、「音声メディア」の魅力はどのあたりに感じていますか?

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草野さんは高校時代から人気のオフィス訪問インタビューサイト「ミキレポ」を運営

草野:シンプルに、文字より音声のほうが配信する手軽さがあるというのがひとつ。それと、文字より「パーソナリティ」というか、どういう人なのかが分かりやすいのも、音声のいいところだなと思います。

宮武:まさに音声は人格が出るというか。『Off Topic』をやっているとたまにリスナーの方と会う機会があるんですが、そこで友達のように接してくれたりするのは、常に耳元で僕らの声を聴いてくれているからだと思います。

知り合いの友人が僕らのポッドキャストを聴いていて、「一度会いたい」と声をかけてくれたのでご飯を食べに行ったんですけど、一言めから下の名前で呼んでくれたりして(笑)。一度も話したことがないのに、そこまで親近感を感じてくれているんだと驚きました。

草野:それにテック系のブログを書いていたときは、スタートアップ界隈の方に読んでもらうことが多かったんですが、ポッドキャストで発信していると、スタートアップとかテック系「ではない」人から、「聴きましたよ」って言ってもらえるんです。いろんなジャンルの人に聴いてもらえるのはポッドキャストだからかな、というのもありますね。

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▷ブログやニュースレターといった文字媒体と、ポッドキャストとの使い分けは意識していますか?

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『Off Topic』はニュースレターも配信し、マルチメディアで運営(出典:Substack)

草野:リアルタイム性があるのはポッドキャストかなと思います。文字で書くよりも音声にするほうが早いので。なので、まずはポッドキャストで出して、全体像を理解してもらってから同じテーマで記事も出す、ということもたまにやっています。

宮武:逆に、音声だと見せられないものっていうのも、やはりありますよね。それこそ図を見せたりとか、なにか比較したりとかは、テキストのほうが適していることもあります。

『Off Topic』では40分~1時間のエピソードが多いんですが、そこですべて伝えられなかったときは、ポッドキャストで取り上げたトピックに関する具体的な事例を記事で紹介したりも。ですから僕らのニュースレターはかなりの長文で、2万字以上のものも多いです。

企画から収録、編集、配信、宣伝まで…… 人気番組の裏側

▷番組作りの詳細について、企画・収録・編集・公開…… このあたりの制作プロセスはどのように行われているのでしょうか?

草野:まず、それぞれ気になったトピックやニュースをシェアして、「これをやったら面白いんじゃないかな?」という打ち合わせをして、あらためて別の日に収録。その後、私が編集して公開するという流れですね。

宮武:収録前の企画ミーティングでは、「なにが面白そうか」ということのほかに、「なにだったらポッドキャストに合いそうか」、場合によっては記事にするべきなのか、別の形で伝えるべきなのか、アイデアを出します。

▷どういう話題がポッドキャストに合っているんでしょうか?

宮武:そこはだいたい、草野さんの勘です(笑)。

草野:たまにカルチャーよりの話もあれば、アメリカの社会問題っぽい話もあれば、地域の話、都市の話もあったりして。アメリカのテック業界と、それに紐づく社会問題とかカルチャーのトピックを届けたいな、というのはありますね。

宮武:なんとなくの構成は僕が担当していて、それを収録する前に軽く、草野さんに「こういう形でどうですか?」と説明して、すり合わせをしてから収録します。そのあと、最初に考えていた構成のままにするか、違う形にするかは、草野さんが編集段階で決めています。

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▷収録の設備や環境はどのようなものでしょうか?

草野:今はすべてリモートでやっていて、「Zoom」でビデオをつなぎながら、それぞれローカルで外部マイクをつないで収録しています。

宮武:Zoomではお互いに声が聴こえるようにしているだけなので、実際の録音は「GarageBand」で行っています。お互いマイクは違うものを使っています。僕がサムスン。

草野:私はオーディオテクニカのダイナミックマイクです。コロナ前や前職で同じ会社にいたときは、iPhoneで録音していましたが、音質を上げたいなと思って、それぞれマイクを1本ずつ買いました。でも、 iPhoneのイヤフォンマイクでも全然いい音だと思いますし、最初はそのくらいでも大丈夫だと思います。

宮武:最初の半年ぐらいは、どちらかというと音質よりトークに慣れるとか、ちゃんとネタを作ることにフォーカスしていました。そのあと購入したマイクも1万円ぐらいで、できるだけ低予算に抑えるようにしていましたね。

▷編集や配信の際に工夫されていること、気をつけていることはなんですか?

草野:編集は「Adobe  Audition」を使っていて、ノイズをカットしたり、ちょっと話が長くなっちゃったな、というときにカットするぐらい。

配信には「Anchor」を使って、配信時間は朝の5時。BGMは同じものをずっと使っていて、アップテンポでアメリカっぽい、ノリのいい感じのを選んでいます。そういう音響的な演出も、Anchorでは選んでポチっと押すだけなのでやりやすいですね。

宮武:それに、一気に他のチャネルにディストリビューションできるというのが、Anchorは圧倒的に楽だなと思いますね。

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▷そして、配信したエピソードはどのように宣伝していますか?

宮武:僕らが一番宣伝で使っているのは、Twitterですね。特に初期のころは草野さんのTwitterがすごく頼りになりました。

あとは一時期、YouTubeやInstagramなど、ほかのチャネルでもプロモーションをしていました。『TechCrunch Japan』など、他社の媒体に記事を載せていただいたりして、『Off Topic』の存在を知ってもらうきっかけづくりもしていました。

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クリエイター側に立って、はじめて見えること

▷ポッドキャストを始められたことで、普段のお仕事や創作活動にどのようなインパクトがありましたか?

草野:やっぱり、テック系でない方にも聴いてもらえたことですかね。音楽をやっている方だったり、アーティストの方だったり……。

『Off Topic』でも「クリエイターが次世代の起業家になる」ということをよく話しているんですけど、そういうクリエイターの方々が聴いてくださって。ビジネスやテクノロジー界隈の「外の人たち」とつながれたのは、すごくインパクトがありました。

宮武:そうですね。僕は投資活動も行っているんですが、自分たち自身がクリエイター側に立つことができて、彼ら彼女らの気持ちが理解できるようになった。だからこそ、クリエイターへの投資支援がよりしやすくなったというのはあります。

それに、ポッドキャストで情報を発信しているといろんな出会いがあって。今まで会えなかったような違う業界の人や、テクノロジー業界の中でも著名な方とお話する機会を得られたり。情報を発信しているからこそ、僕らが提供できるバリューがより明確になったのかなと思います。

▷番組でこれからチャレンジしていきたいことはありますか?

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草野:ライブ音声配信サービスは『Off Topic』でも何度か使ったことがあったんですけど、Spotifyの「GreenRoom」も試してみたいですね。

宮武:僕らにとってすでに、『bytes』でスピード感あるニュース系番組をやるというのは新しい挑戦です。どう端的にいい情報を届けられるか、そこには引き続きチャレンジしていきたいと思っています。

『Off Topic』のほうは、最終目標のようなものはまだ見えていない状況で、だけど、逆にそれが楽しいところでもあるかなと。これからいろんな方向に進んでいけるメディアだと思っているので、それこそどうマネタイズするのか。メディア自体でやるのか、別の切り口でするのか…… まだ分かりませんが、常に楽しいことをしたいというのが、僕の目標です。

▷これからポッドキャストを始めたいという方々に、アドバイスがあればお願いします。

草野:私たちも始まりはiPhoneのマイクからでした。だれでもすぐに始められるのがポッドキャストのいいところなので、ぜひ気軽に配信してみるのが一番いいかな、と思います。

宮武:「やり続ける」のが重要だと思います。毎日、毎週、更新する必要はないですが、ちゃんと定期的にやる、という。初期は僕らも本当にリスナー数が少なかったんですが、2年半やってきたからこそ、今がある。やり続けることをオススメしたいです。

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